最近読んだ本(9月12日)『『女王陛下の外交戦略―エリザベス二世と「三つのサークル」』君塚直隆 講談社部究 双葉社


 『パクス・ブリタニカのイギリス外交』『ビクトリア女王』と同じ著者。
国益最優先のイギリス女王の外交戦略の分析本。
19世紀パーマストンが、ビクトリア女王としばしば対立した様に、エリザベス女王も、時に政府と対立してでも、究極の「大英帝国」の国益を守る。著者の言う、「イギリス外交の3つの円、ヨーロッパ、アメリカ、コモンウェルス(旧英連邦)」のうち、女王はとりわけ「コモンウェルス」を重視する(役割分担か)。コモンウェルスには、時として、強引、冷酷な植民地政策が行われたほとんどの旧植民地諸国だけでなく、英国以外の旧植民地諸国も参加している。同盟、友情の精神を持って。驚きだ。ヨーロッパ等の旧宗主国が、旧植民地諸国と今でも特別の関係を持っていることは、私自身、WTOドーハラウンド交渉を通じて痛感している。
 ナポレオン後の19世紀の欧州が、5大国を中心とした合従連衝でもぐらたたきの時代なら、20世紀、第一次世界大戦はビクトリア女王の子や孫が各国の国王となった。「いとこたちの戦争」となり、英国王だけが残り、残りの王室はすべて消滅した。
イギリス外交は、知略や軍事だけでなく、国王(女王)の皇室儀礼や、ガーター等の勲章も大いに貢献していると著者は言う。もちろん、王のしたたかさと優雅さが他を圧倒しているのだ。
 本書は、エリザベス二世だけでなく、チャールズ皇太子夫妻、ウィリアム王子、日本の天皇・皇后両陛下、皇太子殿下についても言及している。
 よく、イギリスと日本は地政学的に似ているという話もあるが、まったく異なる要素も
ある。イギリスの対面する大陸は、ドイツ、フランス、ロシアといった大国が割拠し、イギリスは「出る杭を打つ」というバランサーとしての位置づけを国是としている。日本にとって大陸とは、殆ど中原を中心とする巨大勢力との一対一の関係だ。イギリスは連合王国で、近代になってイングランド王が現在のイギリスを制服した。国内には言語も通貨もサッカー協会も複数ある。何よりもイギリス(イングランド)の王朝は激しい戦いの結果、何回も交代している。
 似て非なるもの、あるいは、それでも大いに参考になるもの。
 日英関係を強化していくことも、今後、日本が生き残る為の一つの選択かもしれない。20世紀は日英同盟による日露戦争勝利から始まったのだ。