【講演】「シンガポールと水と日本 Vol.1」(2009年5月)

2009年5月 昭成会・講演より

◆アンバランスな水

だいぶ暖かくなってきました。
私の地元も26度、27度という温度になったかと思えば、翌日は8度も下がるという、非常に気温差の激しい日々が続いております。ただ、十勝は一年で今一番いい季節だと思います。
ご承知の通り、私は水に非常に関心があります。十勝地方というのは、日本の平均降水量の元々半分しか降らないのですが、昨年はそのまた半分しか雨、雪が降りませんでした。十勝には十勝川水系と札内川水系の2つがあるんですが、こうなってくるとかなり心配です。特に札内川水系が心配。

これはたぶん、前にもこの会で申し上げたかと思うのですが、この温暖化は、雨が降るところはもっと降るようになり、降らないところはもっと降らなくなってしまうようです。去年あたりから「ゲリラ豪雨」という言葉をよく聞くようになりましたが、ゲリラ豪雨が日本全国で起こっているかといえば、決してそうではない。だから「ゲリラ」というのでしょうが。

ともかく、ただでさえ偏りがちな水が余計にアンバランスになっていくのではないか、と非常に危惧しています。

◆シンガポールの水事情

さて、先週、シンガポールの大統領が日本に国賓として来日しました。
私はもう10年以上の付き合いになりますが、シンガポールの外務大臣とは仲が良く、彼も大統領に同行して来日しておりましたので、迎賓館での朝食会に同席させてもらいました。

シンガポールという国は年間降水量が2800ミリ。日本はだいたい1800ミリですから、かなり多い降水量です。
人口は500万人いるのに国土がかなり狭い。そして高低差の少ない国土ですから水資源が乏しい国です。
実は水源はこれまでマレーシアに頼ってきました。国全体の約90%だそうです。そのマレーシアがここ数年、水の料金を大幅に値上げすると言ってきてるそうです。
シンガポールは1965年の独立時に、マレーシアと二つの「水の約束」というのか契約を結んだそうです。一つは2011年までの契約、もう一つは2061年までの契約です。その最初の契約がタイムリミットが来るということで、マレーシアは条件変更を提示してきた、ということなんでしょう。

ただシンガポールという国はなかなかしたたかな国ですから、2061年までになんとか水の自給率を90パーセント以上にしようという計画を着々と進めているようです。
ともかく2061年までは多少高くても水が豊富なマレーシアから水は確保できますから、それをしつつ、あれこれ計画を進めています。
一つが淡水化プラントをきっちり作っていくこと。そして、再生水、あるいニューウォーター利用を可能にすること。
この再生水は下水を再生するので、なかなか抵抗感が拭えません。
私も東京都上下水道局へ仕事で行きまして、もう再生水に衛生上の問題がないのは分かっているけども、「でももともとは下水なんだよね」という感情が出てきてしまう。
先ほどの外務大臣が言うには、もうペットボトルか何かに「再生水」を入れてただで配って、国民に「これはきれいな水だよ」と慣れさせようかという計画もあるようです。

シンガポールはある意味では民主主義であり、ある意味では独裁国家ですから、無理やり再生水を国民に利用させるための準備をしているんだそうであります。なかなかしたたかな国です。日本じゃまず許されないでしょう。

それから、降水量を考えれば、やはり雨水をできるだけ活用したいと考えているようです。2800ミリのうちの半分をなんとか利用しようと国家プロジェクトがあるそうです。

つまりシンガポールは、淡水化、再生水、そして雨水利用の三つで自分の国の水問題を解決しようとしているわけです。

◆水技術先進国-シンガポール

そこでぜひ、日本にもシンガポールの水問題解決のために協力をしてほしい、と言っていたのですが、シンガポールの水技術の方が日本よりも進んでいるのではないか、と私は思うこともあります。

もともとシンガポールは水の事情が非常に悪い国ですから、技術そのものはなかったと言ってもいいくらいです。しかし、水をマレーシアに握られているわけですから、そこから抜け出すために、技術を凄まじいスピードで高めていった。代表的な企業としてはハイフラックスという企業が水の処理で大変な技術を持ってますが、切羽詰った状況が民間会社の技術を高め、そして、国家として水に取り組むことにつながったのだろうと思います。
そんなシンガポールに対し、日本はいったい何ができるでしょうか。
(つづく)