【講演】「シンガポールと水と日本 Vol.2」(2009年5月)

2009年5月 昭成会・講演
シンガポールと水と日本 Vol.1」の続き

◆日本が水ですべきこと

水について、日本は膜技術(RO技術)が非常に進んでいるとよく耳にしますけども、どうも私に見方では、他国、つまり韓国あるいはシンガポール、そして元々ノウハウがあるフランス、イギリス、ドイツ、そしてアメリカが本気になってやっていくと、追いつかれるのも時間の問題なのではないか、と考えています。

やはり水はシステムで考えるべきものですから、膜技術だけ、ポンプの技術だけ、あるいはパイプの技術だけというパーツだけでは所詮、下請けの下請けの下請けみたいな感じになってしまいます。

ベオリア、スエズ、あるいはテムズあたりも非常に高いノウハウがあります。日本でノウハウを持ってるのは東京都水道局なんですが、一つネックがあるのは自治体であるとことなんですね。東京の水道水、あるいは私の地元でも帯広極上水とか今売ってますけれども、所詮これは宣伝みたいなもので、本当の意味でのビジネスにはなっていません。

ただなんと言っても漏水率が2パーセント以下である日本の上水技術は誇るべきものです。料金をきちっと確保できる収益率が99.7パーセントと、世界に冠たる回収率を誇っているという意味でも、大変な力があるわけです。

この高い技術をこれからどういうふうに世界に広げていくのか。
私は日本の水戦略は、ビジネスと世界への貢献という二つの観点から考えるべきと思い、あちらこちらで話をしているわけですが、これからはますます重要な課題になってくると感じています。

最近聞いた話で難しいことはわかりませんが、IBMが日本セントラル硝子と組んで、Phを調整して浄化する技術で世界特許を取ったそうですね。これは画期的な技術なんだそうです。

私は詳しいことはわからない素人ですけども、ゆくゆくはなんとか水を輸出できないのかなと考えています。こんな重たいかさばるものを輸出できるのかっていうこともよく言われるんですが。
ただ、現にキプロスとトルコの間、あるいはオーストラリアの北部から南部に水を動かしているとかいう事実もありますんで、なんとかなるのではないか、と思っています。
特に中国は水がないわけですから、そこへ日本から水を輸出する。
あるいはロシアから世界中に水を輸出する。

温暖化は決していいことじゃないですが、北極海が温暖化でどんどん溶けてくると通年航路になりかねる可能性があるんだろうとも思うんですね。
そうするとヨーロッパからスエズあたりを通って物を運ぶというよりも、距離的に3分の1ぐらいになるわけです。航路としてはメリットがあるのかなとも思っております。

◆中国とアジア諸国

中国と言えば、先ほど紹介したシンガポールのジョージ・ヨーさんが、やはり中国のことを非常に警戒をしております。
メコン川という国際河川を6、7カ国で非常に大きな権益を争っているわけです。彼いわく、中国が川上で水を実行支配をしていると。
メコン川国際委員会っていうのがあって話し合いの場があるんですけれども、実際にはやっぱり川上が非常に強い。シンガポールは関係ありませんけれども、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオスが非常に強い圧力を受けている、ということのようです。
私もWTOの交渉をやっていてつくづく感じたんですけれども、ジョージ・ヨーさんが言うことには、中国ははマルチの場でも交渉を必ず1対1で行う、と。
確かに、時には脅かし、あるいは時には飴を渡すという交渉を、中国は必ずやります。対アフリカの国々も、ひとつひとつに向かって、人やお金、場合によっては武器を送ったりするわけです。
そういう中でこのアジアにおいても、中国はひとつひとつの国を各個撃破している。これは私とジョージ・ヨーさんの共通の認識である、と言えるでしょう。

具体的にはアセアンの国々のうちで、ミャンマー、カンボジアはもう完全に中国の勢力圏に入ったと彼は言っています。
ラオスは今、ベトナムと中国が引っ張り合いをやっているということでした。
そしてタイはなんといっても今の政権とタクシン派が大変な引っ張り合い、しかも国際会議やる度に大騒ぎするという、ちょっと困った状況になっているわけです。
ひとつには今の国王陛下の高齢化、そして相対的に軍部の影響力が相対的に強くなってきている。

(つづく)