日本農業新聞 「ざっくばらん 農相回顧 中川昭一」(3月24日掲載)


(5)WTO交渉(4)「三すくみ」解けず
《世界貿易機関(WTO)香港閣僚会合後、農業交渉は2006年4月末のモダリティー(保護削減の基準)確立に向けて動きだす》
 年明けの1月末にスイス・ダボスで非公式閣僚会合や主要少数国会合(G6)があった。国会の予算委員会の冒頭時期だから、非常に海外に出にくい時期なんだけど、与野党を通じて海外出張に大変、理解をいただいた。野党の皆さんを含め、交渉は大事なんだからぜひ頑張ってきてくれと。非常にうれしかった。私が恐れていたのは、日本を除いた主要少数国の間で、何かが前に進んでしまうんじゃないかということで、常にそのことが心にあった。
 だから、「こういう会議に出る以上、ポケットの中に(日本の新提案)カードはちゃんと入っているぞ」と言いながら、どんなに小さい会議でもいいから出させてくれと伝えていた。
 米国の通商代表だったポートマン氏は国会議員出身で非常に人柄もいい。今でも親交は続いているけど、彼は、私との友情で「何かあれば連絡する」と言ってくれた。それで「ポケットの中はなんだ」と聞かれたけど、それは「われわれは守る側。出すとすれば、まずそちら(米国)から出してくれ」と言い続けたんだ。
 《4月末の合意時期を控えてWTO交渉は、農業の市場アクセス(参入)と国内補助金、鉱工業品の市場アクセスという三すくみでこう着していた》
 3月末から4月初めにかけて、ブラジルのリオデジャネイロに米国、欧州連合(EU)、ブラジルの閣僚が集まり、そこにWTOのラミー事務局長も加わった。この動きを私は非常に気にしていたんだ。この時、米国とEUの対立を何とかしようということがあったと思う。結局はうまくいかなかったが、進展の是非という意味でここが一つのポイントだったんじゃないかな。これは後で検証しなければ分からないけれど。
 4月合意は難しくなったが、主要国の閣僚はジュネーブに集まってきた。この時に会談したラミーWTO事務局長が「農産物の上限関税は最後にかけるコショウみたいなものだから気にするな」と言うんだ。私は「とんでもない。日本料理はコショウは使わない」と反論したんだ。