日本農業新聞 「ざっくばらん 農相回顧 中川昭一」(3月31日掲載)


(10)米国産牛肉問題(中)答弁で国会紛糾
《2006年の年明けからの通常国会では、米国産牛肉輸入問題が耐震強度偽装問題、ライブドア事件とともに「3点セット」として野党の追及対象となった。1月30日の衆院予算委員会は、中川昭一農相の答弁をめぐって紛糾した》
 そう。私の答弁で紛糾を招いた日の国会は、WTO(世界貿易機関)非公式閣僚会合があったスイス・ダボスからその日の朝に無理して帰ってきたばかりだった。
 午前9時からの予算委員会が始まった後に、民主党の川内博史議員の質問主意書に対する政府答弁書(05年11月に閣議決定)のコピーが回ってきた。読むと、「米国産牛肉の輸入を再開する場合は、輸入再開以前に担当官を派遣して米国の食肉処理施設に対する現地調査を実施することが必要と考えている」などと書いてあった。
 それで、民主党の松野頼久議員から、05年12月の輸入再開では事前の現地調査をしておらず、「閣議決定違反ではないのか」と質問された。その時は、確かに事前調査をしていなかったと思って「閣議決定通りにしなかった」と率直に答弁した。ならば、「どうするんだ」と追及されたから、「どういう責任にしたらいいか考える」とも答えたんだ。
 そうしたら、「責任」という言葉は辞めることだという永田町の解釈で、わぁーとなって、「お前、(農相を)辞めるのか」という話になっちゃった。私には辞める気持ちは毛頭なかった。輸入再開を決めたのは私だから、むしろ、この米国産牛肉問題を自分で解決したいと思った。それで「自分の責任を果たしたい」という意味で「責任」という言葉を使ったんだが、誤解を呼んでしまった。
 《輸入再開が閣議決定違反かどうかで審議は中断。同日夜に、安倍晋三官房長官が「答弁書は当時の厚労、農水省の認識を是としたもので、特定の行為をなすことを決定したものではない」との政府統一見解を示してやっと収拾した》
 予算委員会をほぼ1日空転させてしまったことは、申し訳なかったと今でも思っている。この後、米国産牛肉問題では半年後の輸入再解禁まで、中川坦消費・安全局長が地獄の道を歩くような日米折衝に骨を折ってくれた。