刊フジ連載コラム「中川昭一の言わせてもらおう」(4月11日掲載)


「ピンチをチャンスに変えろ」
「4月はスタートの月、新入社員にメッセージ」
「礼節を重んじて、自分の考えを伝えろ」
「助け合いの精神を大切に」
 日本では、4月は入社式や入学式が行われるスタートの月だ。明治初期、薩長新政府の首脳らが「いつから新年度を始めようか」と話し合った際、故郷で正月を迎えてから上京する時間を考えたら4月になった-という説を聞いたことがある。美しい桜を見て、新しい人生に気持ちを高ぶらせている若者も多いのではないか。
 私もちょうど30年前に大学を卒業して、銀行マンになった。社会人になるにあたり、両親から「お前はもう一人前になった。おめでとう。これからは自分の責任で、会社や社会のために尽くせ」という直筆の色紙をもらった。責任の重さと、未来への意欲を感じたことを覚えている。
 今でもこの色紙は大切に保管してある。
 当時も第2次オイルショックの影響で不況だったが、現在の日本経済も先行きは極めて不透明といえる。人生の先輩として、不安を抱えて新生活に踏み出す新入社員の方々に伝えるとすれば、「こういう時代こそ、ピンチをチャンスに変えろ」ということだ。
 そのためには、まずは健康に注意すること。これはどんな仕事でも同じで、すべては体が資本といえる。そして、自分自身への充電を心掛けること。仕事に直接関係ないと思うことでも、少しずつでも日々勉強すべきだ。自分を磨かなければ、ライバルに勝つことはできないし、成功をつかむこともできない。
 私は新入社員時代から3年ほど、毎朝30、40分早く起きて読書をしていた。銀行の先輩に勧められたもので、経済や歴史の本を読み直した。朝の脳はスッキリしていて、本の内容が頭にスッと入った。本でも新聞でも活字を読み続けることは必ず蓄積になる。
 社会人には人間関係も重要だ。これは学生時代とは違う。
 基本的礼節を重んじながら、自分の考えを相手に分かりやすく論理的に説明していく能力を身につけてほしい。特に外国人との交渉では顕著だが、日本的な「分かってくれるだろう」という考えは、相手にとっては「いただき(=得をした)」なのである。
 与えられた仕事に一生懸命取り組むことは当然だが、加えて、地域や社会、世界の動きに目を配ることも重要だ。現代社会では、世界中のさまざまな動きが密接にかかわっている。どこにチャンスが転がっていて、どこに落とし穴があるのか、迅速かつ慎重な判断が求められる。
 そして、自分が日本経済や社会を支えているという自覚とともに、地域や社会に支えられているという感謝の気持ちを持つこと。人間は1人では生きていけない。厳しい時代だからこそ、日本人が本来持っている「助け合いの精神」を大切にしていくべきだと考えている。