夕刊フジ連載コラム「中川昭一の言わせてもらおう」(6月6日掲載)


「日朝国交正常化議連に拉致棚上げの思惑?」
「国益に反するバスに乗る必要はない」
 先月末の米朝交渉に合わせたのか、日本の大手紙が北朝鮮による日本人拉致事件について不可解な記事を続けて掲載した。
 ある大手紙は先月初め、「横田さん夫妻とめぐみさん娘 韓国で面会仲介要請」と一面で報じた。私の知る限り、記事は事実無根で、名前を出された中山恭子首相補佐官は大変迷惑していた。他の大手紙も同月末、出所不明で事実と確認しにくい記事を報じた。
 ちょうど同時期、日朝国交正常化を目指す超党派の議員連盟が設立された。会長には自民党の山崎拓元幹事長が就任し、顧問には民主党の菅直人代表代行や社民党の福島瑞穂党首らが名前を連ねた。
 議連幹部は「議員外交の立場で政府を後押ししたい」と語っていたが、この議連の動きは、北にさらなる圧力をかけて拉致事件をはじめ、核・ミサイル問題を解決しようという政府の立場とは異なる。むしろ議連の存在は政府にとってマイナスではないのか。
 確かに、米国のライス国務長官とヒル国務次官補は、とにかく米朝協議をまとめようと、北に譲歩に譲歩を重ねている。だが、これが米国の基本方針かというとそうではない。
 私と親しい米高官は、暴走ぎみの2人に顔をしかめて、「ブッシュ大統領とチェイニー副大統領の姿勢はまったく変わっていない。大統領は一昨年4月、横田めぐみさんの母、早紀江さんと面会したときに感じた深い悲しみ、北への憤りを持ち続けている」と語っていた。米議会も決して北への警戒を弱めていない。
 一連の報道や正常化議連の動きの背後には、「バスに乗り遅れるな」とばかり、拉致事件を棚上げにして、北との国交正常化を推進しようという意図(ソロバン勘定?)を感じざるを得ない。
 拉致事件は絶対に許すことのできない主権侵害であり、目をつぶってはならない人権問題である。何の罪もない多数の日本国民が北に拉致され、たった一度の人生を奪われた。こんな非道、悲劇を政府もマスコミも長い間放置してきた。国民を守ることは国家の義務。私自身への贖罪としても、一歩も引くことなく、北に拉致被害者の早期全員帰国を求めていく。
 国交正常化はあくまで拉致事件や核・ミサイル問題が解決した後の話だ。
 先の大戦直前、陸軍は「バスに乗り遅れるな」とばかり日独伊三国同盟を推し進めようとした。当時の米内光政首相は「へんてこなバスなら乗る必要はない」と断固抵抗した。三国同盟が成立したのは米内内閣退陣からわずか2カ月後で、日本は一気に戦争への道を走り始めた。
 国交正常化を急ぐばかり、拉致被害者を見捨て、拉致という犯罪を見逃すことなどあってはならない。世界中から「日本はすぐ譲歩する」「国民すら見捨てる」と軽蔑され、相手にされなくなる。日本の国益に反するようなバスに乗る必要はない。