真・保守政策研究会 「中国の人権状況を考えるシンポジウム」での講演録(4月30日)


●司会(衛藤晟一事務局長) おはようございます。本日は早朝より大勢の方にお集まりいただきましてありがとうございます。「中国の人権状況を考えるシンポジウム」をただいまから開催いたしたいと思います。
 今日は証言者として元チベット亡命政府主席大臣兼外務大臣のテンジン・テトンさんにお越しを頂いています。アメリカからお越し頂きました。また世界ウイグル会議事務局長のドルクン・エイサさんにも、ドイツからお越し頂きました。
 そして、コメンテーターとしてペマ・ギャルポさん。ウイグルの本を書かれた水谷尚子さん。
それからアムネスティ・インターナショナル日本事務局長の寺中誠さん。ジャーナリストで国家基本問題研究所理事長の櫻井よしこさんにもお越し頂きました。
 それでは、ただいまから「中国の人権状況を考えるシンポジウム」を開会させていただきます。まず開会のご挨拶を真・保守政策研究会の中川昭一会長にお願いたします。


会長挨拶
こんな人権状況で五輪が開催できるのか危惧している


●中川昭一会長 皆さんおはようございます。本日は連休中、しかも急にこのシンポジウムを開催することに致しましたにも拘わりませず、多くの国会議員の先生方、またこの問題を真剣に考えていただいています――かなり会場が限定的でございますので人数を絞らざるを得なかったわけでありますけれども――大勢の皆様方にお越し頂きましたことを、真・保守政策研究会の会長として心から厚く御礼申し上げます。
 言うまでもなく、中国は多民族国家でございます。そしてなかなか情報が伝わらないわけでありますけれども、しかしいろいろ外国等からの情報を聞きますと、例えばインドへ逃げようとするチベット人に対しての襲撃、あるいは家の中で普通に暮らしている人々に対しての大変な激しい襲撃等が行われているやに聞いているわけでございます。
 隣国である中国、そしてまた我々にとって大変親しみのあるチベットの方々が大変厳しい状況に置かれていることを我々としても認識し、国家として、人権を大事にする日本として一体どうなっているのだろうか、どういうふうに考えていかなければならないのかということを今日皆様と共に、専門家の先生方にお話を伺いながら考えて行きたいと思っております。
 我々の研究会も、先日まで二回この問題について話し合いまして、決議をしたところでございます。まず公正中立なマスコミの報道がほとんどない現状でございますので、これをきちっとやるべきである。また暴力などが行われているとするならば、それを直ちに止めるべきである。そしてチベット側、特に最高指導者でありますダライ・ラマ法王と、中国側とがきちっと公平対等にこの問題の解決のために話し合うべきである――という三点の決議をしたところでございます。
 我々も、もとより八月八日から行われます北京でのオリンピックの成功を願っているわけでございますけれども、しかしこういう状況では、オリンピックは本当にスポーツの祭典として明るく楽しくできるのかということを世界が危倶しているわけでございますし、私どもも全く同じ認識でございます。
 今日は外国からもお越し頂きました専門家の先生方のお話を聞いて、改めてこの問題を皆さんと共に理解をし、そしてまた統一的な認識を持ってやっていきたいと思っております。
 なお、公平を期すために中華人民共和国在日本大使館にもご出席をお願いしたところ、欠席をするというご返事がございまして、大変残念でございますけれども、そのことを皆様方にご報告をさせていただきながら、シンポジウムをさせていただきたいと、こういうふうに思いますのでどうぞよろしくお願い致します。ありがとうございました。


●司会 どうもありがとうございました。なお、真・保守政策研究会の決議文が皆様方にお配りしました資料の一番最後にございます。どうぞごらん頂きたいと思います。
 それでは、テンジン・テトンさんとドルクン・エイサさんから十五分ずつお話しをして頂きたいと思います。もちろん、日本語訳がつきますので時間は倍になるわけですが、よろしくお願い致します。
 まず最初に、元チベット亡命政府主席大臣兼外務大臣でございましたテンジン・テトンさんからお願いします。


証言1 テンジン・テトン
抗議行動はチベット人が世界中で心を一つにして起こした


●テンジン・テトン(元チベット亡命政府主席大臣兼外務大臣) まず最初に議員の先生方、そして日本の有識者の皆さんの前でこのような話す機会を与えて下さったことに対して、心から御礼申し上げたいと思います。
 チベット問題について今まで勉強されてこられた方々はよく認識しておられると思いますけれども、この二、三十年の間に、ある意味でチベット問題は死に絶えたかのような印象がありましたけれども、最近再びチベット問題がこのようにして世の中に復活してきたということをまず申し上げたいと思います。
 もちろん、チベットの歴史的な位置づけ、それから現在チベットで何が起きているかということが非常に重要ですけれども、それよりももっと重要なのはこれからチベットがどうなるかということであります。チベットがどうなるかということは、所謂中華人民共和国が今後どうなっていくかということにもつながる問題であります。今回は幸いにして私達の兄弟であるウイグルの方々(はいますが)、残念ながら私達の兄弟のモンゴル人は(今回は)いませんけれども、モンゴル、チベット、ウイグルの今後の行方によって、中国そのものの形も変わってくるということを認識して頂きたいと思います。
 今回、三月十日以降にチベットで起きた様々な抗議行動を通して、皆さんはこの五十年間、中国がチベットを支配していても、チベット人の心をつかんでいないということを充分に理解できたのではないかと思います。
 それから更に、本来のチベット全土において今回抗議行動が起き(訳者註――これは本人の言葉ではなくて通訳として解説しますと、本来のチベットとは甘粛省、四川省や雲南省、青海省などのことです)、そのチベット全土の五十カ所に抗議行動が広がったということは、本来のチベットの人たち全部が一致団結して、心を一つにしていることを示したのだと思います。
 そして、何よりも私達亡命先の人たちが誇りを持っていることは、国内にいる人たちが自分たちの命をかけて今回の抗議行動に出たということです。もし彼らが捕まったりした場合、どのような拷問や残酷な罰が待っているかということを充分承知した上で(抗議行動を)行ったことに対して、国内外そして世界の皆さんに、チベットの人たちの勇気、そして彼らがそうしなければならない苦境に立っているということを知ってもらいたいと思います。
 チベットからの難民は世界にわずか十五万人しかおりません。外国にいる色んな亡命者の中でも数は少ないと思いますけれども、幸いにもインド、ネパール、ヨーロッパ、あるいは日本等において、チベットの人民が一人でもいるところでは必ずというぐらい、三月十日以降今日にいたるまで、抗議行動やお祈り等の形で意思表示がなされているということも、私自身一人のチベット人として誇りに思うと同時に、皆さんの支援にも感謝したいと思います。
 以上のようなことから皆さんに察していただけると思いますけれども、チベット人は決して諦めておりません。チベットの人たちは再び自分たちの自決権を取り戻すことを望んでおります。そしてチベット人はそれを取り戻す方法としては、あくまでも平和裡にやりたいということも決意しております。このような平和裡のやり方ということに対しては、平和を愛する日本の皆さんにも共鳴して頂ける、理解していただけるのではないかと思います。
 最後に申し上げたいことはチベットと日本の関係についてです。私たちは共通の価値観、特に文化において共通点がたくさんあると思いますし、人類学者等が研究すればきっと人種的にも近いということになると思います。
 また、チベットと日本の本格的な友好関係というのは、特に第二次世界大戦前後においては極めて親しい関係にあり、チベットは小さいながらも先の戦争において、西欧の協力を拒んであくまでも中立を通したということも是非日本の皆さんに改めて思い起こして頂きたいと思っております。
 そして私達が難民になってから、日本の宗教界や政界、あるいは言論界、そして色んな方がチベット難民に対して、ある時は協力の面で、ある時は難民の救済活動等に対して多大なる支援を頂いたことに対しても、チベット人は決して忘れることはないと思います。またダライ・ラマ法王が日本を訪ねる度に、日本の各界の方々が親しくお迎えして下さったことに対しても、チベット人は感謝しております。どうもありがとうございました。


●司会 どうもありがとうございました。もう少し具体的に、チベットの中で今どういうことが行われているのかという詳しい証言もして頂ければ非常にありがたいと思います。


●テンジン・テトン まずチベットの中の現状ですけれども、まず皆さん御存知のように今は携帯電話という媒体がありまして、国内から様々な情報が入ってきております。それらによりますと、中国におけるチベットの弾圧はより一層強まっております。中国側は十五名ぐらいの犠牲者が出たと言っておりますが、チベットでは具体的に確認できた人たちで百五十名ほどが殺されていることも分かっているし、今後、更にこの数等については増える可能性があります。
 また、現段階において既に捕まった人たちは、非常に残酷な拷問等も受けているということも聞いております。
 一つの具体的な例を申し上げますと、私がサンフランシスコから日本に出かけようとした時に、ニューヨークの友人から電話がありました。彼によると、国内にいる彼の従兄弟から電話があって、ラサの市外のトルーンという所に中国が作った火葬場があって、その火葬場に毎日毎日チベット人の死体を中国側がトラックで運んで物のように扱っているということ、それでどうしたらいいかということを彼は私に尋ねてきました。これが現状であります。


●司会 どうもありがとうございました。ただいまテンジン・テトンさんから、チベットにおける状況についての話を聞かせて頂きました。それでは次に、ウイグルの状況についてドルクン・エイサさんからお願いしたいと思います。よろしくお願いします。


証言2 ドルクン・エイサ
ウイグル民族が抹殺されようとしている


●ドルクン・エイサ(世界ウイグル会議事務局長) 今日は先ず先に、私に日本の政府関係者がこのような機会を与えてくれたことに心より感謝を申し上げます。
 五十九年に渡って弾圧され続け、自分の声を世界に向かって知らせることも出来ずに、今文化も何もかも歴史上から消されようとする一つの民族の声を皆様に伝えることができたことを非常に誇りに思います。本当は自分の言いたいことを直接日本語で伝えたかったのですが、言葉の問題でそれができないことをお詫び申し上げます。
 私達の祖国を今中国では新疆ウイグル自治区と呼ぶんですけれども、本来の名前は東トルキスタンであります。面積は中国の六分の一を有する場所であります。古代シルクロードの中心地でもありますし、カザフスタンとかキルギスタン、パキスタン、ロシア、インド、チベット等のいろんな国と国境を接しています。
 私達の祖国である東トルキスタンは一九四九年に中国共産党によって侵略されました。チベットより二年程前に侵略されました。世界中で「民主」「人権」などに全ての人々が関心を持つような時代になってきましたけれども、そういう中でウイグル人は全く逆の方向に向かって進んでいる状態です。この五十九年に渡って、ウイグルの人たちが何度も何度も民主化への要求や自由への要求、平等への要求などを平和的な手段で訴えてきましたが、それが一貫して暴力的に鎮圧されてきました。
 特に最近になって中国共産党は、ウイグル文化、そしてウイグル民族そのものを完全に消してやろうという方針でいろんな政策を打ち出して進めています。今、ウイグルの人たちが抱えている問題は単なる人権や文化的な問題ではなくて、一つの民族が生きるか死ぬか――民族の存亡がかかっている非常に深刻なところに来ています。
 中国共産党は四九年に侵略してから、一九五五年に新疆ウイグル自治区というものを作り上げました。しかしながら、今までこの自治区というのは紙上のものでしかなく、機能していません。
ウイグルの人たちはその中国共産党がわいわい騒いでいる自治の権利を何一つ実感したことがありません。
 これまで(中国共産党は)ウイグルの人たちの平和的な民主や平等などの要求に対して、「民族主義者」とか「宗教過激派」とかいろんなレッテルを貼って鎮圧、弾圧してきましたが、特に九・一一テロ事件が起きてからは、ウイグルにテロのレッテルを貼って、弾圧は更に深刻化しています。要は九・一一の前までは「民族主義者」とか「宗教過激派」とか「国家分裂主義者」とか、そういうレッテルで弾圧していたんですけれども、九・一一が起きてからは一晩にしてウイグルの人たちは「民族主義者」でも「分裂主義者」でもない、テロだというようになったのです。
 中国にとってその唯一の口実になったのは、ウイグルの人たちがイスラム教を信仰していることです。世界的に反イスラムの感情が強まる中、このレッテルを貼れば、こいつらを完全に始末できるというふうに思いこんで、こういうレッテルを貼ったのです。
 中国はオリンピックを招致した時に、人権の改善を約束していたんですけれども、その機会を手に入れてから、人権弾圧は更に深刻化しており、オリンピックはまさにウイグルの人々にとって今までに例のない惨劇をもたらしています。
 (今年)三月末にチベットで起きた事件後、東トルキスタンでも早急に軍事管制が敷かれています。三月二十三、四日に東トルキスタンのホタンというところで、主に女性達が集まって中国に対する平和的なデモを行って政治犯の釈放などを要求したんですけれども、それも暴力的に鎮圧されました。今明らかになっている数だけでも七百人ぐらいの女性が拘束されております。
 それに加えてホタンだけではなく、カシュガルとか各地で軍事管制の体制が敷かれており、人々の自宅まで警察がやってきて、その人がオリンピック開催中に何か起こすのではないかという、勝手な疑いだけで人々を日々拘束しています。(しかし)何一つ証拠がないんです。自分たちの歴史意識や民族意識を持っていて、本当は政府に不満を感じているんじゃないか、オリンピック開催中に何か変なことをしてくるんじゃないか、というような勝手な疑いを自ら作り上げて、人々、特に若い人を中心に各地で拘束しています。
 町と町の間には厳しい検問所を設け、自分が住んでいる町から他の町へ行く人は、そこで必ず厳しい検査を受けます。何のために、どこで誰と何をしにいくかとか、そこまでいちいち必ずチェックされるんです。例えば東トルキスタンのグルジャという町とウルムチという町の間は七百キロぐらいあるんですが、今私達が入手している情報によりますと、その間に検問所が七つもあると言われています。
 そのグルジャという町では一九九七年に、ウイグルの若者達が民主化を要求して平和的なデモを行ったのですが、その時に軍隊を動かして鎮圧した。その現場で三百人程度のウイグルの若者達が銃殺されています。九七年に起きたその事件後、ウイグルの人たちがそこで亡くなった人たちを、毎年毎年いろんな形で祈念したり追悼したりしてきているんですが、今年の一月二十七日にはウルムチで何人かが一人の自宅に集まって、その事件をお互い語り合ったり、(事件で亡くなった人たちを)祈念する集会をやったんです。そこに警察がそういう情報をつかんでいきなりやってきて、本当の数字は良くわかんないんですけれども、十八人を現場で銃殺したという情報が入っています。
 東トルキスタンでも元々、特にウイグルの人たちはパスポートをなかなか作れません。外国に行くことは禁じられています。そういう中で、ある程度お金を持っているか、何らかの形で権力につながってるとかという条件を満たした人たちが――非常に少人数ですけれども――一応パスポートを持って外国に商売に行ったり、親戚の訪問に行ったりしていたわけですが、特に最近になって新しくパスポートを作ることは完全に止めて、元々パスポートを持ってた人たちも一人一人呼んで、パスポートを強制的に回収しています。
 特にオリンピックが近づくに連れて、ウイグルの人たちがオリンピック開催中にテロを計画しているという(情報を中国側は流しています)。要は中国政府としてはテロがひとつでも起こって欲しくてしょうがない状況にあるわけです。それで、自分たちでいろんなパフォーマンスを行い、色んな情報を流しているんです。ただ実際に起きないから証拠は何一つ示していない。要はそういう自分たちで作り上げたものにウイグルの人たちを巻き込んで、「こいつ等はテロだ」と叩こうと今一所懸命にやっているわけです。
 けれども、なかなか向こうの思う通りにはいかないという状況にあります。そういうテロに近いものが一つでも起こって欲しくて、色んなものを自分で作り上げて、要は飛行機ハイジャック事件とか、あるいはバスの爆発とか、そういう色んな情報を流して、後から自分で流した情報を自分で否定したりしている状況もあります。
 この中国のやり方は、国内にとどまらず外国のあちこちでそういう政策を展開していまして、私達を初めとする平和的に組織を作って民主化運動や人権を訴えている組織に対しても、そういう人たちに対しても、「テロだ。早く帰してくれ(中国に送還せよという意味)」ということを各国に訴えています。
 中国政府は去年、私が今所属している世界ウイグル会議という組織自体と、組織のトップであるラビィア・カーディルさんをテロ(集団)だとヨーロッパ議会に訴え、この人たちと関係を持たないようにと訴える手紙をヨーロッパ議会に送っています。
 ラビィア・カーディルさんが世界ウイグル会議のトップに就任された次の日に、彼女がやっている民主化運動に報復するという形で、彼女の二人の息子のうち一人を七年、もう一人に九年の実刑を言い渡しました。
 (中国は)数年前からこういう工作を色んな国でやって、ウイグルの声を一所懸命に伝えようとしている海外組織や人たちにレッテルを貼ったり、「(中国に)帰してくれ」と訴えているわけですが、今まで国際社会では何一つ認められていません。
 皮肉なことに、中国がヨーロッパ議会にそういう手紙を送った五カ月後、世界各国から集まったウイグルの政治活動家たち五十人ぐらいがヨーロッパ議会を訪れて、そこで二日間に渡って会議をやりました。
 先週もまた世界中のウイグルの人権活動家や政治活動家がドイツに集まって、セミナーを三日間に渡って開いたんですが、その時もセミナーに参加した人たちがみんなドイツ議会を訪れて、何一つ問題なく、そこで活動を続けています。
 一方ではアメリカ議会も去年五月、ウイグルの文化と人権、そして世界ウイグル会議のトップのラビィア・カーディルさんの捕まっている息子達の釈放を要求する決議を採択しています。一言でいうと、(中国は)私達を一所懸命にテロ(リスト)に見せかけようとしているのですけれども、これは国際社会ではなかなか認められていません。
 弾圧は政治的な面からだけではなく、経済的な面から見てもウイグルの人たちは今、経済の発展から完全に取り残されている状況にあります。東トルキスタンにはあらゆる種類の資源が豊富にありますけれども、しかしながら何一つ現地の人たちにはその利益を与えずに、全てが内陸(中国)に運ばれていく。
 農民達の平均の年収は今、中国の人民元で千元、日本円でいうと一万五千円ぐらいです。東トルキスタンで大学を卒業して、就職をさがしても、ウイグル人はいらないと言われることがあります。
 それに加えて宗教的な自由というのは何一つない。十八歳未満の人たちが、モスクに行ったり、宗教に関する活動を一切やってはいけないと、禁じられています。
 また文化的に言うと、東トルキスタンは新疆ウイグル自治区と呼ばれているのですが、それなのに今、幼稚園から大学までウイグル語は教育の場で一切使ってはいけないということになっています。ウイグルの大学の教授とかもウイグル語で講義してはいけない。学生達に何一つウイグル語で教えてはいけない、漢語で教えろと言われています。
 街の様子も、元々のウイグルらしい雰囲気は全て破壊され、その代わりに中国風の建物なり色んな物によって中国化しています。歴史上長く残ってきたウイグルの文化的な遺跡とかも全部壊して、それを中国風にいろんなものを建てたりして、ここは昔から中国の一部だったんだよという街作りまでやっています。
 ウイグルの歴史あるいはウイグルの文化、特に歴史に関しての書籍は見つかった瞬間に燃やしてしまうわけです。今までずっとそういう形をとってきたので、ウイグルの人たちは自分の歴史を読むことができない。自分の歴史も学ぶことができない。今もウイグルの歴史、あるいは外国の雑誌とか新聞は見つかった段階で全部燃やしてしまうわけです。二〇〇三年にカシュガルという町で、一万部の書籍を一日の間に燃やしたという情報を私はつかんでいます。
 もう一つ私達ウイグルの人たちが非常に怒りに思っているのは、ウイグルの人たちに対して所謂一人っ子政策を本当に乱暴に実施する一方、毎日のように数え切れないほどの漢人を移住させていることです。一人っ子政策は非常に乱暴な形で行われていまして、例えば出産が一、二カ月後に迫った女性が政府に知られて――要するに二人目、三人目をもうけていることが知られて――その段階で強制的に子供をおろしたりして、子供も死ねば母親も死ぬという悲惨な事例を私達は何度も何度も聞いてますし、実際に起きてます。
 二〇〇五年一月五日、自治区のトップであるイスマイルという人がある会議で明らかにした数字ですけれども、彼の話によると、一人っ子政策を実施して十五年間で三百万人の子供――生まれるはずの三百万人の子供――が生まれてこなかった。私達のこの政策は大成功したというふうに自治区のトップが自ら言っています。
 もう一つ最近になってウイグルの人たちが直面している悲惨な状況の一つは、政府が強制的に十五歳から二十五歳の間のウイグルの女性を中心に、中国の内陸に強制的に移住をさせています。政府の言い分は、その人達はそこ(ウイグル自治区)で就職できない状況にあるから、内陸で職を与えるというふうに言って強制的に移住させるんです。けれども、その一方で毎日のように内陸から漢人を東トルキスタンに移住させているわけです。
 今、私達のつかんでいる情報によりますと、内陸に強制的に移住をさせられた女性達は、一日平均で十五時間働かされている。政府は、女性達を移住させるときに、給料は中国元で千元与えると約束したらしいのですが、実際に私達がつかんでいる情報によると、実際に女性達は三百元しか貰っていない。
 更にひどいのは、女性達は移住先に行ってから外部、例えば親戚なり親とは監視があって連絡は取れない。自分がどういう状況にあって、何をしているのかも親には知らされていないと。
 もう一つは、六四年から九六年の間に東トルキスタンで中国政府が四十六回にわたって原爆実験を行ってきました。私達がつかんでる情報でも、四十六回にわたる原爆実験の被害を受けて死亡した人の数は二十万人という数をつかんでいます。その長年に渡る原爆実験の被害で、東トルキスタンでは、障害を持った形で生まれてくる子供達の数が非常に増えています。
 私が大学に通っていた八五年と八八年に、東トルキスタンの新疆大学で学生達が平和的なデモを行って、この原爆実験の中止を求めたんです。それが私達の罪になって多くの人たちが捕まり、私もそれが罪になって国を逃れなければならない状況になって、外国に行くしかなかった。今も、それが私の犯した罪とされて、「テロリストだ。帰してくれ」というふうにドイツ政府にも日々訴えているわけです。
 日本の皆さんも原爆の被害をよくよく実感して、それが如何にひどいものなのか誰よりもよく分かっていると思いますけれども、その意味で、東トルキスタンの人たちと原爆の被害を受けた日本の人たちは同じ運命を抱えているわけです。
 五十九年に渡ってこういうひどいことがいろんな形で行われてきたんですけれども、ただウイグルの人々は何一つ希望を、自由への希望を失ったわけではない。私達は、ウイグルの人々はあくまで自由への希望を断念しないし、これからも闘いを続けるつもりであります。皆様方ありがとうございました。


●司会 どうもありがとうございました。今、安倍前総理、そして麻生前外務大臣もお越しでございますが、ここでテトンさんから追加の発言があるということでございます。


●テンジン・テトン 特に付け加えるというよりも感謝申し上げたいことは、最近世界各国の指導者たちが今回のチベットで起きたことについて談話等を発表されました。その中で日本の総理大臣も、この問題は世界の関心がある問題だということを仰有ってくださったことに対して、世界各国で非常に評価しています。これは日本という国が世界で如何に重要であるかということでありまして、今後も日本がアジアのリーダーとして発言して下さることは意義が高いということを申し上げたいと思います。


●司会 どうもありがとうございました。それでは、今日お越し頂きました四人のコメンテーターからコメントを頂きたいと思います。まずぺマ・ギャルポさんからお願いいたします。ペマさんは桐蔭横浜大学の教授をしていらっしゃいます。どうぞよろしくお願い致します。


コメント1 ペマ・ギャルポ
これはチベットだけの問題ではない


○ペマ・ギャルポ(桐蔭横浜大学教授) どうも今日は。私は過去四十三年間、日本でいろんなことを訴えてきましたし、今日会場にいらっしゃる方にもたくさん今までお目にかかっています。時々、中国大使館の前で、私達デモ隊よりも警察の方がずっと多いというような、そういう状況でやって参りました。今回は先生方のお陰でこのような会を催して下さったことに対して心からお礼を申し上げます。
 重要なことだけ申し上げたいと思います。一つは今までも日本はいろんな形で、先ほどお話なされた中川先生のお父様から、あるいは平沼先生、あるいは安倍先生のおじいさまからずっとお世話になりました。私がこうして日本語をしゃべるのもそういう先生方のお陰であるということを改めて申し上げます。
 しかしその一方では、世界の先進国の中において残念ながらダライ・ラマ法王と会ってないのは日本の首相だけであるということも是非日本の皆さんに知ってもらいたいと思うし、チベット問題はアジアの問題であると思います。
 隣の国が毎年、これだけの軍事増強をし、そして人民解放軍によって十三億の人たちを押さえているということを考えてみると、これは日本の安全にも大きく関わって来ると思うし、日本の繁栄にも関わってくると思います。その意味で、このチベット問題は決してオリンピックが終わって終わるものではありません。アメリカ等世界各国において現在、有識者や国会議員あるいはジャーナリストによっていろいろな委員会が作られています。アメリカでは百人委員会を作りましたので、今回これをきっかけに、できれば日本でもそういう委員会というものを作ってもらいたいということを嘆願したいと思います。
 それからもう一つは、五月六日に胡錦濤さんが日本に来るということを踏まえて、中華人民共和国という国が一応ダライ・ラマ法王と話し合いをするということになっています。日本の新聞も何か対話をするということで大きく報じていますけれども、これは残念ながらあくまでも一時的なごまかしにすぎないと私は思っております。
 それは日本に来るときにマスコミに対して、「今話し合いをしている」と言うためであって、今回の話し合いは根本的な問題について触れないそうです。何を話すかというと、とりあえずチベット側からは今回捕まった人たちの釈放を求めることとか、あるいは今捕まっている人たちに(中国は)充分な医療も与えていません。そして看病もしていません。そういうことに対する要求をするとか、そういう話し合いのための話だけで終わると思います。
 皆さん、二〇〇一年の時に中華人民共和国という国が初めてオリンピックに立候補したとき、あの北京市長が何を言ったかというと、「これから私達は天安門のあの悪いイメージを払拭して、世界に対して中国が進歩したこと、特に人権問題に対して進歩したことを示したい」と言いました。しかし、今やってることはそれと逆であります。今中華人民共和国がやってることは何かというと、これも僕は家でよくやるんですけれども、机の上を散らかしたときに、家内から怒られると、食事の時間だからしょうがないから全部囲いの中に入れる。それと同じように、中華人民共和国はオリンピックは数カ月後だからと言って、中国人も含めて言論の自由を弾圧しております。
 私は八千万人の人々を殺した毛沢東の肖像画の前で、もし世界の首脳達がまじめな顔をして並んで、そして世界の健全な精神を持っている選手達が毛沢東の写真の前で行進したら、これは私は次の人類の子孫に対しても恥だと思っています。
 中華人民共和国に、直ちにパンチェン・ラマをはじめとする政治犯の釈放を求めたい。世界の人たちがパンチェン・ラマをはじめ政治犯の釈放と、もちろんウイグルの人も含め、チベットの人も含め、中国人自身もたくさん政治犯として捕まっています。そうした人たちを釈放することが、中国がオリンピックを開催するにふさわしい国であることを示すために必要だと思います。
 もう一つは、チベットのダライ・ラマ法王は「真の自治」ということを私達に仰有っています。もちろん私達チベット人は誰もダライ・ラマ法王に従わない人はおりませんけれども、自由のない真の自治、あるいは民主主義のない真の自治はあり得ないと思います。そういう意味で中華人民共和国の今の制度は限界に来ています。今の制度そのものを変えるために、ダライ・ラマ法王のメッセージは大きな意味を持っている。そしてそのことについて最近、幸いなことに中国人の有識者達も勇気を持って発言するようになりました。
 日本の皆さんも、これは決してチベットだけの問題ではない。ウイグルだけの問題ではない。モンゴルだけの問題ではない。同じアジアにおいて十三億の人たちに自由がない。私は日本にいて自分の家内の郵便物を決して開けたりしません。しかし今、中華人民共和国においては、毎日毎日メールとか手紙とか全部検閲しています。このような社会を変えることは、あるいは変えることに対して、私も他の人たちも、もし人権とか自由というものが人類共有のものであるとすれば、当然それを確保するために力を貸す権利と義務の両方があるのではないかと思います。
 先ほどウイグルの方、あるいは先輩から話がありました。中華人民共和国という国の名の下において人権の弾圧が今この瞬間にもたくさんの人たちが捕まって、そして拷問にかけられている。オリンピックは終わってもまだこの問題は終わらない。本当に私達一人一人が「人民解放軍」になって欲しいと思います。「人民解放軍」になることによって、「偽の人民解放軍」から人々を解放してもらいたいということを申し上げて、時間が来ましたのでこれで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。


コメント2 水谷尚子
マスコミは中国の発表をそのまま流さないでほしい


●司会 どうもありがとうございました。それでは中央大学講師で文春新書『中国を追われたウイグル人』を書かれた水谷尚子さんにお願いします。どうぞよろしくお願いします。


●水谷尚子(中央大学講師) 水谷尚子と申します。昨年文春新書から『中国を追われたウイグル人――亡命者が語る政治弾圧』という本を出版しまして、この中にドルクンさんや、そして今の世界ウイグル会議のラビィア・カーディルさんなどの紹介を書いております。八分間という短い時間ですので、私はウイグルの問題とテロ、そして日本の報道について特化してお話ししたいと思います。
 なかなか日本の報道では現地の状況というのがうまく伝わってきておりません。というのはウイグルに関して報道される場合、中国政府の公式見解――当局発表か、あるいは亡命者組織、あるいはラジオ・フリーアジア――これも亡命者による放送と言っていいと思いますが――そのどちらかの発表しか情報源がなかなかないわけです。で、とかく日本のメディアというのは中国当局の発表をそのまま流してしまうパターンが非常に多い。そして中国当局がテロリストだと言ったらそのまま書いてしまうというような事例が非常に多いと思います。
 私は随分世界各国を回って、亡命した人たちにインタビューをしております。その中には九〇年代に実際に武装闘争に関わったという人たちも存在します。この九〇年代というのはちょうどソ連が崩壊して新しい国々が中央アジアに出来た頃で、この当時は武力での解放を実際に目指したウイグル人も確かにいたわけです。しかし現在においては、各地の亡命者というのは武装闘争というのはとても非現実的だと見ておりまして、当時武装闘争を実際にしたような人たち、例えばトルコにいるような方々も、そういうような運動は既に放棄しております。
 にも拘わらず、中国当局は例えば最近でありますと、三月に中国南方航空がウイグル人の十九歳の少女によってテロ未遂にあったと報告をしております。これも日本の報道は、その背景は東トルキスタン・イスラム運動だと中国当局の発表をそのまま流していますが、その後の状況を見てますと、例えばその油を撒いたという飛行機でそのまま北京に途中でいったん降りて、すぐに乗客を乗せたまますぐに北京に飛んだりして、予定のお客様を降ろしたときの対応しかしてないんです。果たして本当にそれがテロだったのかというのは、私は限りなく疑わしいと感じております。
 例えばこのテロ未遂なんですが、二〇〇二年に発生した中国の北方航空の墜落事故以来、中国各地では液体の持ち込みというのが本当に厳格に禁じられております。ましてやウルムチの飛行場には飛行機に乗るウイグル人への手荷物検査というのは漢人や外国人に比べて本当に比べものにならないぐらい厳しくなされているのに、何故こういうことが起こったのか。また本当にそうなのかという証拠写真は何もないわけです。
 これだけではありません。先ほどドルクンさんがお話ししたホタンへのデモについても、これもイスラム解放党の扇動だと中国当局は発表しておりますが、イスラム解放党というのはウズベキスタンなどを拠点にするイスラムの原理主義組織なんですけれども、これとウイグル人と直接関係ある、この組織の中にウイグル人が入っていると、そして強い指導力を持っているということは今の段階では全く証明されていないし、私も随分イスラムによって団結しようと考えているウイグル人の亡命者にも会ってますが、この組織に深くコミットしているというウイグル人に今のところ一人も会ったことがございません。
 他にもたくさんあります。東トルキスタン・イスラム運動による北京五輪への爆破テロが計画されていたというような報道も日本の中でやられておりますが、そもそもこの東トルキスタン・イスラム運動という組織、これは数年前にハサン・マフスームという人が作ってやっていた組織なんですが、このハサン・マフスームがパキスタンの軍隊によって殺されてから事実上崩壊した組織でして、この組織の主要な人たちというのはハサン・マフスームと一緒に殆ど死んでるわけです。この組織が現在でも強大な力を持って海外から内部を操ってるということは絶対考えられない。私の取材では考えられません。
 このように中国政府は、我々日本人も含め西洋人も、そして自国の漢人も含めてイスラムに無知であることを、そしてこういうウイグル人社会に無知なことを利用して、彼らはテロリストだからと欺いて、恐怖心を煽って、そしてウイグル人のその反政府運動を封じ込めるつもりであると思われます。
 私の聞き取りによると、そういうウイグル人の反政府運動というのは、日本で言えば江戸時代の農民一揆や一向一揆のそれに近い。それにも拘わらず、中国側の報道では正義の味方の中国公安と解放軍が祖国のために東トルキスタンの分裂主義、テロリスト集団と闘うというような昂揚感あふれる宣伝をしております。
 どうか報道に関わる皆さん、事の本質を、当局の発表をそのままを流すのではなくて、例えば亡命者であるとか、その他の方々の話を聞いてどうか報道に関わってください。これは私からのお願いです。どうかよろしくお願いいたします。
 最後に一つだけ、特にここにいる政治家の皆さんに私からお願いしたいことがございます。日本はこれから仲介者としての役割を果たせるようになって頂きたいなと私は思うのです。例えば政治的に大変な弾圧を受けて命からがら海外に逃れるような人たちをどうか受け入れてください。亡命者を受け入れる体制を考えていただけないでしょうか。亡命者の持ってくる情報というのは中国の内面を知るのに非常に貴重なものの一つであると思われます。
 また日本の過去の事例から、日本人こそ漢人に対して異民族支配をするというのがいかに自他共に深手を負うのか、日本人こそわかっている筈なので、それをどうか漢人達に語りかける、そして仲介者としての役割を果たせるようになって欲しいと思います。


コメント3 寺中誠
オリンピックが人権弾圧を強めている


●司会 どうもありがとうございました。大変政治に取りましても、日本こそまさに仲介者の役割を果たすべきであるというご指摘でございました。ありがとうございました。それでは皆様方のお手元に「最高の思い出は人権の金メダル」というパンフレットもお配りさせて頂いています。アムネスティ・インターナショナル日本事務局長の寺中誠さんにお願いを致します。


●寺中誠(アムネスティ・インターナショナル日本事務局) どうぞよろしくお願いいたします。「最高の思い出は人権の金メダル」というパンフレット、こんなにたくさんいらっしゃるとは思ってもいませんで、部数が少なくなっておりますので、こちらの方にちょっとございますので、もし必要な方はよろしくお願いいたします。
 私の方は、この中国の現在の状況というものがどういう段階にあるのかということを少しお話ししたいと思います。当然私どもアムネスティは人権団体というふうに標榜しておりますので、人権分野のということにはなるんですけれども、この間チベットで盛り上がってしまったこの話、実はこれは単なる氷山の一角でしかありません。しかも、オリンピックということで、中国政府は何度もオリンピックが近いからということを言っているわけですが、先ほどペマさんも仰有いましたけれども、オリンピックを招致するというふうに決めた段階で、中国政府は人権を改善すると公約したんです。ところがこの公約を一切守っておりません。むしろ現在、オリンピックがあるからといって強制立ち退きをさせ、人々を拘束し、報道の自由を取り上げ、そしてチベットやウイグルでの弾圧を強化している。従ってオリンピックの故に、オリンピックを理由として、人々を弾圧するという方向に転じております。
 かつて実はオリンピックに名乗りを上げるもう少し前ですが、中国は様々な形で人権の改善策を提起しました。そのうちの一つに、地方出身者が都市部にやってくる。その場合に免許を持たずにやってくる。つまり登録がない。そうすると都市部に来た人々は送り返されてしまうわけです。所謂国内の移住労働者、国内の入管法違反ということになって、オーバーステイになって帰るということがあったわけです。これをやるために拘禁施設、収容移送という拘禁施設があったんですが、これを廃止しました。これはあまりにもひどい。そんな国内にいる人間に対してそんな扱いでいいのか、ということが内外からいろいろ言われたわけです。そしてそれをなくそうということでなくした。
 ところが現在それが復活しています。なぜか。オリンピックがあるからです。オリンピックのせいで、人々を全部元いたところに戻しますので。これは明らかにオリンピックを理由にして人権弾圧を強めているという状況です。これを何とかしたいというのが我々の願いでもありますし、おそらく世界の願いでもあろうというふうに思います。
 中国はこれまで長い間の人権侵害の歴史があります。様々な形で人権を侵害して参りました。特に拷問の使用というものは激しいものがあります。中国はそれこそ拷問先進国のひとつです。つまりチベットにおいて中国政府はかずかずの拷問をそこで開発し、実施し、実験し、そして世界に輸出していたわけです。
 同じ事が今度は反テロ戦争という名前でウイグルで行われています。ウイグルの人々を捕まえ、テロだというわけです。しかし、例えば詩人とか作家だとかそういう人まで捕まえます。この人々までテロリストなんだそうです。その時に使う言葉は精神的テロです。文化的テロ。所謂テロという言葉がインフレを起こしているわけです。だからこそ私達アムネスティではテロという言葉を使わないことにしているんですが、こういうことがあるわけです。すなわちテロという言葉の定義ははっきりしない。その中で使われているテロという言葉はどんどんこういう形で恣意的に使われてしまうわけです。その中でウイグルでの人権弾圧はますます加速しているという状況です。
 二〇〇一年まではさはどの状況ではなかったというふうには言いません。二〇〇一年までにも数々の人権弾圧があり、そして二〇〇一年以降、反テロ戦争ということも加えてますます加速しているという状況です。
 実は二〇〇一年以前の段階で、日本と非常に関わりの深い方がウイグルで捕まっております。東京大学に当時留学されていたトフティ・テュニヤズさんという方なんですが、ウイグルの歴史の研究者です。単なる研究者です。この方が東大で研究しておられて、そして中国に戻って、また研究資料を調べるということで図書館に行くわけです。図書館に行って昔の歴史資料をコピーするというようなことをしました。そうしますと、そのコピーした文書が国家機密漏洩罪であるということで捕まってしまいまして、現在も獄中にあります。十一年の刑というものを宣告されました。このトフティさん、実は日本に留学されていたわけですから、ご家族がその段階でまだ日本に残っておられるわけです。現在実は日本にまだ残っておられます。
 今日、実はこの会場にもいらっしゃっておりまして、ラビィアさん、ちょっとお立ちいただけますか。トフティ・テュニヤズさんの奥さんのラビィア・トフティさんです。
 お子さんも二人いらっしゃるわけで、そういうお子さん方を育てる、そして暮らすということを選択され、そして日本に現在も留まっておられます。このトフティさんの刑期は十一年ですから、実は来年その刑期が一応終わる筈なんですが、その後日本に戻ってこれるかどうか。皆さんご承知の通り、中国政府の非常にきつい対応というのがありますから、このあたりも先ほど水谷さんの話にもありましたけれども、そうやって弾圧を受けている人々を日本が受け入れる度量というものを持たなければいけないんじゃないか、というふうに私達は思います。ですからそういう形での、人々を救うという、そういう方向に日本も是非一歩踏み出して頂ければなというふうに思います。
 あと、日本の中からいろいろ考えていくときに、先ほど水谷さんの日本のジャーナリズムの話がありました。実際ジャーナリズムというのは非常に重要なポイントです。このジャーナリズムが健全に育っていないと、そのあたりでどういうことが起きているのか、国内で何が起きているのかがはっきりと外へ出ていきません。中国の人々とジャーナリズムの話をすると、必ずしもそうではないよと。いろんな声が出てくるよ、いろんな報道もあるよというようなことは言われています。実際そのようです。段々といろんな情報は出てくるようにはなっています。
 しかしながら、このオリンピックを理由にしてまた再び中国政府は弾圧というか報道の制限というものを強化しております。その強化しての報道の中にインターネットを介しての報道というものがあります。インターネットはこのごろ、最近はどなたもお使いになると思うんですが、インターネットでウェブサイトを見るということが中国では自由にできません。我々アムネスティのサイトなんかは一番標的になっていまして、絶対見ることができないということになって、一応リストに上がっているんです。
 何故それが可能なのか。我々がつかんだ情報では、三万人ほどの職員が向こうにおりまして、そして一所懸命、日夜ウェブサイトを見て、それがまずいかどうかを調べている。そしてリストアップしている。こういう作業をやっている人々が実際にいるということです。人海戦術をかけてそれだけの労力をかけて作っている。そしてインターネットのコミュニケーションというものをそこで遮断しようとしている。そしてそれを越えて何とかして情報を出そうとした人々は、場合によっては見せしめ的に捕まえる。そして現在においても捕まえられて獄中にある有名なインターネットの活動家もいらっしゃいます。
 こういうインターネットや、それから通常の報道もそうなんですが、そういう報道の自由を制限して一体何を隠そうとしているのかということなんですが、中国政府が隠そうとしている情報はほとんどの場合、別に機密ではありません。普通に入手できる情報にすぎません。ですから、国家機密を防衛しようとしているわけではないんです。そうではなくて、そういう異論を出していく、異論を発信していくという行為自体を止めようとしている。そういうふうに考えざるをえません。
 そして、そういうような態度をとるという事自体、民主主義国家にあるまじき、近代国家にあるまじきということでもあるんですが、それ以上に世界の平和にとっても非常に大きな脅威である。そういうことを皆さんには是非ご認識いただいて、これから先の中国政府に対しての働きかけというものを、もっときちんと戦略を持ってやっていただければ非常にありがたいというふうに思います。どうしても日本は隣国ですから、非常に大きな影響力を持つわけです。その段階で、一つの構造をきちんと分かった上で、それに対してきちんと中国には物を申すんだというふうな態度を是非取って頂ければというふうに思います。以上で終わらせて頂きます。


コメント4 櫻井よしこ
福田総理は開会式に出席なさるべきではない


●司会 それでは、ジャーナリストでもあり国家基本問題研究所の理事長でもあります櫻井よしこさんにお願いします。


●櫻井よしこ(ジャーナリスト) 今まで皆さん方のお話をここで聞いておりまして、本当に日本としてこのチベット問題にどう対応するか、そして五月六日から来日される中国国家主席の胡錦濤さんに日本国総理大臣としての福田康夫さんがどのように対応するかということが非常に大きな問題であるということが実感されました。
 私は八分間ですので、チベットの問題に絞って私なりに問題提起をしてみたいと思います。中国の崔天凱大使が過日日本のテレビに出ておりまして、チベットでは弾圧は行われていないということを縷々仰有っておりました。そしてその中でパンチェン・ラマのいらっしゃる地区では全く暴動は起きていないということを仰有っていました。
 ご承知のように現在のパンチェン・ラマは中国共産党が選んだパンチェン・ラマでございます。一九九五年でしたか、ダライ・ラマ法王様が選んだパンチェン・ラマ――ニマ少年という方がいらっしやいました。六歳でした。選ばれた途端に家族と共に姿を消しました。今日に至るまで一切消息は分かりません。昨年アメリカの下院の外交委員会でこの問題が取り上げられまして、十二年間にのぼる消息不明の事態を看過することは出来ない。アメリカ政府としてこのパンチェン・ラマ、ダライ・ラマ法王様が認可した少年及び家族に面会したいということを中国政府に申し入れましたら、彼はただの少年であるから外国の使節団と会う資格はないと言って断り、生きているか死んでいるかどこにいるかさえも未だに私達は分かっていません。
 それから更に一年が過ぎました。一年が過ぎてチベット問題でこの抵抗運動が起きたときに、中国を代表する立場で、パンチェン・ラマのいらっしやるところでは暴動はないんですよとおっしゃった。この壮大な皮肉に私達日本国民は政治家もメディアも国民も気がつかなければならないと思います。
 そして、先程来多くの方がおっしゃっておりますように、北京五輪開催の条件として中国政府は、人権問題を改善しますという約束をしております。チベット民族の民族性を尊重し、ウイグル民族の民族性を尊重し、人権に配慮しますという約束でありましたけれども、そのような約束を守るつもりは全くないのだという法制度が昨年作られました。九月でございます。
 ご承知のようにチベット仏教は、法王様が亡くなるとその生まれ変わりの方がこの世に現れるという信仰を元にしております。それを活仏、生き仏といいますけれども、中国共産党はこのチベットの生き仏様の生まれ変わりを中国共産党の許可制にするということを決めました。法律の名前は「チベット仏教活仏転生管理規則」といいます。昨年九月に施行されました。共産党が仏教の根本である活仏を許可するかしないかを決めるんだそうでございます。笑止千万。噴飯ものであります。これを昨年九月に実施しました。
 一方ではオリンピックを開催する前に人権状況を改善しますと世界に言いました。これは国際社会に対する背信であります。五輪に対する侮辱であります。このような、制度としての世界を欺く現象が起きていることを私達は強く指摘しなければならないと思います。チベットの人々の文明の否定、ウイグルの人々の文明の否定。これは戦後の占領政策の下で日本文明を否定されてきた日本人の私達が見過ごすことは許されないことです。
 チベット問題は東トルキスタンの問題であります。東トルキスタンは台湾問題であります。何れの点についても、私達はこれらを重大な問題として捉えなければならず、見過ごすことは出来ないわけであります。
 今、チベット、そして聖火リレー、北京五輪が話題になっておりますけれども、中国政府もこの北京五輪について、そして五輪、オリンピックついて、このように述べております。「スポーツと政治は別である。オリンピックと政治は別である」。しかし歴史を振り返ってみると、中国こそがこの五輪を如何に政治的に利用してきたかということがわかります。例えば一九五六年、メルボルンで五輪が開催されました。これは非常にホットな五輪でありました。エジプトとイギリス・フランス・イスラエルなどが対立したスエズ動乱の時であります。またハンガリーとソ連が対立したハンガリー動乱の時であります。こうしたことに抗議をして、多くの国々がこのメルボルン五輪をボイコットしました。そしてまた、中国もこのメルボルン五輪をボイコットしているのであります。一九五六年です。
 そして一九八〇年、これは多くの人が憶えている筈です。モスクワ五輪です。ソビエトのアフガニスタン侵攻に抗議をして、わが国もアメリカもそのほか多くの五十カ国がモスクワ五輪をボイコットいたしました。そして中国もボイコットをいたしました。
 まさに五輪は政治であるということを中国はこれまで実際の行動で示して来たわけであります。今、北京五輪を前にして、北京五輪のみが政治と関係がないという言い方は余りにも白々しい国際社会に対する偽りであると思います。
 私は一つ二つ提案したいと思います。日本が本当に大国としてアジアの尊敬を集め、世界の範を示したいと望むのであるならば、私達の持てる最大の武器をここで活用して欲しい。日本の持てる武器は武力ではありません。中国とは違います。日本の持てる武器は価値観を大事にすることであります。まさに価値観外交を今こそ展開していただきたい。民主主義と自由と人権と法の支配。それを全面に押し出すことによって、チベットを助け、ウイグルの人々を助け、そして世界の多くの苦しんでいる人々を助けることによって、日本が世界のリーダーたるべき道を切り開いていかなければならないと思います。
 それこそが日本の力であると思います。従って、五月六日に来日される中国国家主席の胡錦濤さんを心から歓迎するためにも、北京五輪に対してわが国政府は一言言わなければならないと思います。
 開会式は政治のセレモニーそのものです。スポーツとは関係のない政治そのものでありますから、私は福田総理は開会式に出席なさるべきではないと申し上げたいと思います。出席なさるにしても、チベット問題、ウイグル問題、人権問題に著しい改善を示して頂きたいということを断固として申し上げていただきたい。それが実施された段階でなら、北京五輪の開会式も喜んで前向きに検討しますということを仰有って頂きたいと思います。
 今、チベットの運命がかかっています。東トルキスタンの運命もかかっています。けれども、私達日本人にとって認識されなければならないのは、日本の運命もかかっているということです。以上です。ありがとうございます。


フロアーからの発言(長野での聖火リレー抗議活動関連・要旨)


●司会 ありがとうございました。大変重いお言葉を頂きました。長野の聖火リレーに行っていました青年が帰ってきて、どんな様子だったかということをお伝えしたいということですので、マイクを渡したいと思います。


●松岡 去る四月二十六日、長野で開催されました聖火リレーに行ってきました。マスコミで報道されてない点を三点報告いたします。
 二十七日の朝日新聞には中国の国旗しかございません。あたかも中国の旗に全て占拠されたかのような長野市の様子でございます。確かに異様な状況でございました。約四千人の中国人が長野に来たと言われています。しかし、日本国民の中でチベットの旗を持って日本人の意気を示そうと全国から集まった万が一千人以上おりました。それも半分以上は個人で来た、インターネットで来た、日本人としての良心を示したいということで集まったたくさんの青年がおりましたことをまず報告致します。
 二点目は、中国人の違法行為や暴力行為を警察は取り締まっていませんでした。マスコミの報道では逮捕者が日本人五人と台湾在住の亡命チベット人とで六名、また中国人と見られる男性四人が軽傷を負ったと。あたかも日本人が違法行為を行って中国人が被害を負ったと、そういうマスコミの報道でございますけれども、私が聞いた話では、地方議員のグループの十七名の方が中国人によって暴行を受け、怪我を負ったと。中国の旗竿で殴る蹴る、またチベットの旗を持ったヨーロッパ人の女性がいました。中国人の中にいたら傘でつつかれていたと。もう一人でいると中国人から何をされるかわからない。大変な状況でございました。
 警察に、何故このような中国人を取り締まらないのかということを言ったら、警察はなんと言ったかといいますと、「暴動が起こるから取り締まらなかった」と。日本人の行為は取り締まって、中国人の違法行為は取り締まらないという情けない事態であったことを報告いたします。
 三点目ですけれども、まさにこれは中国による政治的なメッセージの場でございました。マスコミの報道では中国人は「中国頑張れ」と中国語で叫んでいたとありましたけれども、中には「ワンチャイナ」という叫び声やプラカードもたくさんありましたし、中には「日本を潰せ」と言っている中国人もいたと。長野市民の方が大変びっくりしていたということでございました。


●水間 山門からチベットのトーチを持って整然と行進してたんですけど、ひどい状態でした。整然と歩道の脇を二列で歩いていたら、突然進行方向を完全に旗で隠されて、先頭の人が先ずよけようとしたらアルミの竿でがつんと頭を殴られて頭から血が流れました。これは警察がちゃんと被害届を受けています。また一人は眼鏡を割られて殴る蹴るされました。私もトーチ持っていたら、奪い取られそうになって、すると警察が三人、間に入って中国人を押さえつけたんです。そしたら警察三人に旗竿で殴る蹴る、もうぼこぼこにしてましたよ、警察に対して。
 私は五十センチ高い花壇に避難していたんですけど、少し落ち着いて降りたとき、中国の若い女の子に背中をドンと蹴られました。同行取材していた北海道新聞の記者もいるんですけど、全然関係ないところで三回どつかれたとかんかんになって怒っていました。
 「フリーチベット」と叫んでいる日本人がたくさんいましたけれども、紅衛兵の打ち壊しみたいなことが日本の法治国家の中で行われた現状を見るにつけ、後十年たったら我々は「フリージャパン」と叫ぶような状況になるというのは、明らかに原体験として経験してまいりました。


チベット・ウイグル問題を勉強をしていく常設の場を


●司会 国会議員の皆さんからの質問なりコメントなりをお願いしたいと思います。


●戸井田とおる(衆議院議員) 兵庫十一区の戸井田徹です。私も長野に行きたかったんですけれども、今の水間さんやいろんな人から話を聞きましたし、私のブログの中でも随分書き込みを頂きました。もうちょっと静かにと思っていたんですけれど、現状は違うようです。そしてテレビで報道されること、また新聞で報道されることが事実だと思ったら大変なこれは間違いを起こす。我々はインターネットを通じて、また同時に現場でもって何を見てきたのか。自分たちでそういうものを目撃してくるということは非常に大切なことだなと。我々も国会議員としてやりたいけれども時間が充分とれない部分もある。こういう機会をいただいて、国会議員も忙しいけれどもそういう事実を知るということが大切なんじゃないかなと。テレビを見てどこかで本を読んでそれで知ったつもりになる。そういうところがあるんじゃないかなというふうに思います。
 それから一般の人にこういう風に入って頂いて、一般の人の意見というものを真摯に聞くのも政治家の大きな役割じゃないかなというふうに思います。是非、真・保守政策研究会でそういうことをこれからももっともっとやっていただきたいし、今回チベット、新疆ウイグル自治区の東トルキスタンの問題、そういったものをこの会で取り上げていただいて常設的に勉強をしていく機会を是非作って頂きたいなと思います。前の先生方には大変いいお話を聞かせていただきましてありがとうございました。以上です。


国会で証言する機会を


●ぺマ・ギャルポ 一つは現在長野でチベット人が捕まっております。もちろん、日本の法律に違反した行為に対しては裁きを受けなければなりませんけれども、彼に対して罰金三十万と十日間の勾留というのは、彼がタイで中国の反対運動やったということも加算しているらしいのです。それについてはちょっと納得いかないと思います。日本国内の法律に対してはもちろん裁きを受けなければなりませんけれども、中国に反対した行為そのものに対して罪になるということに対しては、やはり日本が主権国家としておかしいのではないかと思います。調査してくださいというお願いをしたいと思います。
 それから、先ほどからチベットのみならずウイグル、それから実はモンゴル人民党も日本に来ています。彼らもできれば何かの時に一緒に加えてください。今、彼らも一所懸命頑張っています。
 私達の仕事は皆さんに情報を提供することであると思います。そして、もちろん判断は日本の皆さんがすることですけれども、その情報提供をするに当たっていろんな形で力を貸して下さい。ヨーロッパにおいては各議会で今までに、例えばラビアさんがEUによばれたり、ダライ・ラマ法王も何回もよばれています。私もかつて何回か証言してきました。オーストリアをはじめ。ですから、日本の国会でもできたら私達が証言できるようなそういうご配慮をお願いしたいと思います。
 そのためには、先生方が仕事をしやすいようになるためにも、まず地方議員から――これは他の国々でもそうだったのですが――様々な決議をしていただきたい。他の国の決議にそのまま賛成するぐらいでもいいと思うんです。そういうことをお願いすると同時に、先ほども申しましたように、せめてここにいらっしゃる方々百名ぐらいに名前を貸していただければ、その人の名前で私達が行動して、そして先生方に陳情するということも必要だと思います。会場にいらっしゃる皆さん、帰りに名刺だけでも下さい。よろしくお願いします。どうもありがとうございました。


チベットの地位について政府として発言をしていただきたい


●稲田朋美(衆議院議員) 非常に魂を揺さぶられるようなお話、そしてまた評論家の先生からもお話を頂きました。私は自民党の外交部会でこのチベット問題をなかなか取り上げてもらえないので、取り上げて欲しいということを部会長に言って取り上げていただきましたが、日本政府の立場がこのチベット問題について、人権問題については国際法上の問題であるけれども、チベットの地位についてはこれは内政干渉になるのでコメントをしないというのが政府の立場であるということです。
 しかし、私は人権問題の根本にはやはりチベットの地位の問題があると思っています。何も理由がなくて今のような暴動というか人権問題が起きている筈がないわけであります。私は日本は常任理事国を求めているような東アジアの大国であるならば、きちんとチベットが求めている真の自治を、民族自決に基づいて真の自治を求めていることについてもきちんと日本国政府として発言をしていただきたいと思います。以上です。


夫の帰還に力を貸してください


●司会 では、先ほどご主人が東大で歴史の研究をしておられたトフティさんの奥様でございます。


●ラビア・トフティ 私は大勢の方の前に出てきたのは初めてなので、事実だけ申し上げたいと思います。私は九五年に初めて来日しました。主人は東京大学人文社会科研究科で佐藤教授の下でウイグルの歴史文化を研究を続けていましたので、博士(課程)卒業の直前に資料調査のために一時的に三週間の帰国をした際、中国の公安に日本の言い方で言うと拉致、秘密に拘束されました。
 拘束されましても家族に一切連絡もなしで、結局、探しに行って、内から情報を求めるという形で事実が判明しました。裁判も秘密裁判で家族も弁護士もなく、政府の弁護士という形で、十二年の判決です。罪名は国家分裂扇動罪、もう一つは中国の国家機密を日本のある組織に提供しようとしたと。いずれにしても、国家分裂扇動罪にしても機密を外国に提供しようとしたという罪も未遂ですが、合わせて十二年。来年二月がちょうど十一年になりますので、二月六日に刑務所から出る日を迎えます。
 私は日本に二人の子供がいます。上が七歳で下が三カ月の子供を抱えています。今は上が十八歳になり、下は十歳になりました。来年二月に刑務所から出ますが、出てきた後、私達はどうなるのか。今、私は毎日チベットの状況やウイグルのデモを見て、悲しくなってくるのは、今までは刑務所の中にいるんですけど、刑務所の中から出てきたら、こういう精神的なテロリスト、こういう人達の運命はどうなるのか、私達の家族はどこにいるのか。この十年間、日本でビザの延長さえ大学の教授達の助けがないと延長できない状況で過ごしていまして、幸いにも良心的な日本の会社の社長さんが助けてくれて、今は会社で経理の仕事をやってます。
 どうか来年二月刑務所から出てから、マスコミも日本の政治家の方々も、日本と中国の交流のための力にもなりますので。政治家でもないし、運動家でもないし、私の主人はただの学者で、日本の教授の下で日本の先生の指導を受けて、卒業論文を書くためなので、それにしても十二年間というあまりにも長い判決が出たんです。この十年間、中国の法律といろいろ戦いながら、日本で生活してます。来年二月、何とか力を貸してください。


民族の危機に日本として力になりたい


●司会 どうもありがとうございました。瞬く間に予定の時間をオーバーしてしまいました。最後に平沼赳夫先生からご挨拶です。


●平沼赳夫最高顧問 大変貴重なお話を伺うことが出来ました。一方は五十九年間も迫害にあっている、もう一方は五十七年間も迫害にあっている。しかもそれは文化とかそういう事じゃなくて、民族そのものが抹殺されようとしている。本当に私ども日本としてもお力にならなければならない、そういう思いにさせていただきました。
 長野の聖火リレーの話もひどいなと思いました。今インターネットの時代でありまして、私の所にも全部メールなどが入って来ました。それを読ませて頂くと先ほどご報告があったとおりでありまして、ひどいですね。日本の警官の前で中国人に殴られて現行犯で逮捕しろと頼んでも、日本の警官は見て見ぬ振りをしてとにかく騒動を起こしたくないと。こういうことで逃げを打っているわけであります。
 今日は櫻井よしこさんにも来ていただきました。最近櫻井さんが著した『異形の大国中国』という本を読ませていただきました。ここにいらっしゃる中川昭一先生が経済産業大臣の時に、東シナ海の油田、ガス田に対して日本もしっかりしなきやいかんということでいろいろ手を打たれました。しかし中国は顔では微笑しておりますけれども、実際は四つのガス田に対して、どんどん手を打って来ております。既成事実化をしてしまっているんです。
 先ほどのお話の中でも、「フリーチベット」じゃなくて「フリージャパン」を十年以内に我々は言わざるを得ない、というお話がありましたけれども、ご本を読むとまさにそういう気持ちがしてきます。今日のチベット、ウイグル、そして評論家の皆様方のお話しを聞いて、我々も本当に「日本人しっかりしろ」ということで、これからも対処していかなければならないと思います。
 今日は国会議員の皆様にもたくさんご参加をいただきました。どうか気持ちを一つにして頑張っていかなければならないと思っておりますので、よろしくお願い致します。先生方本当に今日はありがとうございました。


●司会 ありがとうございました。今日は皆様方から、日本は仲介者の役割を果たしていただきたい、あるいは日本は亡命者をちゃんと受け入れるべきではないか、またトフティさんから、刑を終えた時に本当に日本は受け入れてくれるんだろうかというお話もありました。大変な役割があるようでございます。また、五年前に人権問題を改善すると言った公約をちゃんと守らなくちゃいけない。そのことをちゃんとやれと。日本はそういう形で今後動いていかないといけないようでございます。それが私ども国会議員に与えられた使命でございます。また国会で証言できるようにして欲しいとか、いろんなお話もございました。そのことを私どもも肝に銘じながら今後頑張って参りたいと思います。
 本日は大変お忙しい中、中国の人権状況を考えるシンポジウムに多数の方のご参会頂きまして誠にありがとうございました。心から感謝申し上げます。また、テンジン・テトンさんにはアメリカから、そしてドルクン・エイサさんにはドイツからお越し頂きました。またコメンテーターとしてお話し頂いたペマさん、水谷さん、寺中さん、櫻井さん、本当にありがとうございました。以上で終わらせていただきます。ありがとうございました。(以上)