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「最近読んだ面白い本」(2009年6月5日)


しばらく書いていなかったが、以下の3冊が特に面白かった。
① 「女王陛下のブルーリボン」君塚直隆 NTT出版
著者の本は既に何冊も読んでいるが、イギリスを中心としたヨーロッパ政治史を、イギリスの最高勲章「ガーター勲章」を通じて描いている。今から650年前に制定され、騎士団との関係、名のきっかけが面白い。
勲章の価値も国力と比例する。中世ヨーロッパの周辺国だったイギリスは、従ってこの勲章も見向きもされなかったが、その「したたかさ」と「大陸国内のつぶし合い」と「バランス・オブ・パワー政策」を通じて、次第にヨーロッパの主要国となり、勲章の歴史も重くなって行く。外国の元首は競ってガーター勲章を必死で欲しがる。
それを、イギリスは、巧に利用する。国の格、元首の格、そして何よりも叙勲が自国にとってプラスになるか。従って、敵国になれば、すぐ取り上げる。
日本は、ガーター勲章授与と日英同盟と日露戦争がセットだった。第2次世界大戦で取り上げられ、戦後、又、紆余曲折を経て復活した非欧米唯一の国。
日本も、国益の為に、伝統ある、世界が羨む、日本の勲章をもっと外国に配慮すべきだ。最近、WTO交渉やEPA交渉等で大きな役割のあった閣僚達が何人も叙勲され、又、その相手であった私も光栄なことにいくつも頂いた。そして両国間の友好は別の次元でも更に深まる。
本書の中で興味深い歴史を一つ。
イギリスはヨーロッパ各国の亡命者の集まる中心地。19世紀ナポレオン戦争前後もそうだったが、第2次世界大戦時も同じ。しかし、ある国の国王がヒトラーに攻められたが、国内で頑張って実質捕虜になった。これにチャーチル首相が激怒した。「ヒトラーが国王を手中にすれば、対英・仏の為に思う存分利用される」(P202)
さっさとロンドンに亡命すれば、国民は怒ることを国王は恐れただろう。政治判断は難しく、歴史的評価も分かれる。著者は「一つの鍵」を通じて全体の歴史をわかり易く著わす達人だ。
同著者では、他に「女王陛下の影法師」「ロイヤルネイビーとパクスブリタニカ」(共著)、等も面白い。いずれ紹介したい。
② 「おどる民、だます国」小林章夫 千倉書房
今世界は、歴史上何度目かの世界的金融・経済危機の真只中。
その最初は17世紀前半、オランダの「チューリップバブル」と言われている。チューリップの球根一つで家が買えた。しかしそれも1年と続かず、宴の後「風の取引」と言われた。
それから80年後、フランスとイギリスでは、続けてバブルが起きた。ミシシッピー会社と南海会社を巡る国を挙げてのバブルだ。著者はこれを近代初期の三大バブルと言い、その後1820年代の南米鉱山、1840年代イギリスの鉄道建設、アメリカでは19世紀の西部開発、20世紀初頭の金融、更には世界大恐慌、80年代の日本、そして現在と400年足らずの近代世界は、ヒト、モノとカネ、欲望との絡み合いの中で常にバブル経済の歴史と言ってもいい。
バブルが続いている間はバブルとは言わない。思わない。バブルとは、「バブル崩壊」のことで、熱く無限に前進するかの様な心理から一挙に暗く、皮肉っぽく、縮み、停止している心理へ質的にも化学変化することだ。触媒はいつもちょっとした水の滴る音、胸騒ぎ。そもそも「バブル」はまともではないのだ。バブル崩壊の今、世界、とりわけアメリカは「もう大丈夫だ」「V字回復だ」「グリーン・ショート(春の芽生え)だ」と意識的に言っているが、果たして本当だろうか。
日本もバブル崩壊後、何回も余震(或いは本震の連続)があった。
今、アメリカは「いつわりの夜明け(白川総裁発言)」かも知れず、バブル崩壊から数年経て、銀行や証券会社が次々と破たんした直後の日本、1998年頃(その後もいろいろなショックがあった)の様なのかもしれない。
本書は歴史書としても勿論面白いが、経済的に見れば「歴史は繰り返す」の一言。
ミシシッピー会社バブル(当地のフランスのアメリカ植民地経営会社、“ミリオネア”の語源はミシシッピーと著者は書いている)」は、ジョン・ローと言うスコットランド人がオランダを経て、フランスで金融改革しようとしてバブルを起こす。この人物も興味深い。
南海会社バブルは、イギリスが植民地経営やスペインとの間において作られたペーパー・カンパニー。国王まで巻き込み、評価の高い、ウォルポールが始末する。しかし、著者はウォルポールを現実主義の者で自分達の利益代表と分析する。
本書は前書、君塚直隆先生より頂いた。
③ 「ある明治人の記録」石光真人編著 中公新書
 会津人、柴五郎の日記。この人は戊辰戦争で祖母、母、姉妹等一族多数を失い、郷土から辺境へ移住させられ、軍に入り陸軍大将にまでなった。
 義和団事件で列強をまとめ、国際的評価も高かったと言う。但し、功成り遂げた人の本ではなく、会津人としての誇りと苦痛、恨みの日記。
とにかく読むしかなかった。
幕末に生れ、昭和20年に没したのも数奇だ。