志帥会 政策勉強会での講演録 「水問題について」(2007年12月6日)


志帥会 政策勉強会での講演録「水問題について」(2007年12月6日) 志帥会会議室にて
水やエネルギー、食糧、それからレアメタルなどの資源は、決して日本でも豊富ではありません。しかも地球全体で見ても有限の天然資源でありますし、色んな問題が出ていると言えます。
 結論から言うと、水、エネルギー、食糧、資源、これらは四位一体と捉えて対処すべきであり、そして、この遍在不足、マーケットの混乱が、貧困問題、あるいは病気問題に極めて大きな影響を与え、しかも何れも密接に関連しているという問題意識を強く持っております。
 私、谷垣政調会長にお願いをして、今回、党に「水の特命委員会」というものを作って頂きまして、事務局長を竹下亘先生に、森総理には特別最高顧問になって頂きました。皇太子殿下が名誉総裁になられて、森総理はご存じの通り、水会議で橋本総理のあとをやられておられるということですので、近日中に第1回の委員会を開かせて頂きたいと思います。
 皇太子殿下は、ご承知のとおり、オックスフォード大学留学中の卒論が『中世テムーズ川の運河の水運について』というのが研究テーマでして、たいへん水問題にはご関心ご造詣が深いということで、私もこのご講演を、一つのテキストとして勉強しているところです。
 現在、地球上にある水というのは海水がほとんどであって、淡水は僅か2.5%しかありません。しかも淡水のうちの70%が南極大陸にあります。それ以外にも、北極とかシベリアとかヒマラヤとかアルプスとかグリーンランドなどにありますが、いずれもがいわゆる極地にあって、しかもその他に地下水もあります。これらを除くと、実際に人間が利用しやすい水は0.01%しかないという、極めて限られた資源なのです。
さらに、水問題は温暖化CO2等の問題と密接に関連していまして、温暖化に伴い世界の異常気象が益々進むことにより、CO2の排出だけではなくて、農業あるいは、人間活動の結果、水問題というのが益々大きな課題になってくるわけです。南極一つとっても、全部溶けると地球上の水位が57m上がるとか、グリーンランドが溶けると7mも水位が上がるとか言われています。そうすると、水浸や塩害といった影響があるので、真水自体、極めてレアなものであると同時に異常気象温暖化により益々偏在してきて、洪水と渇水の二極化が進行するということになります。
 そういうことで、地球上ほとんどの地域で、温暖化や経済発展、貧困の深刻化による水問題があります。サハラ以南は、農地の3分の1が、大洪水が酷くなって危機に瀕している一方で、サハラ以北は逆に砂漠化という、イナゴの大発生みたいなものがあり、両極端になっているようです。
 日本は水だけは豊富ではないかと思われがちですけれども、一人当たりの淡水保有量が世界平均の3分の1近くしかなく、決して水ですら豊かではありません。降る量は多いんですけれども国土が狭くて人口が多く、さらに地形が急峻だということで、決して豊富ではないのです。それから水保有についても、先人達から大変苦労されていて、全国22万の溜め池があるそうですけれども、溜め池とか水田とか森林とかいったもので、必死になって水管理、水との戦いを先人たちがしてきているわけであります。我々も、今後その努力をさらに進めていかなければなりません。
 因みにダム問題というのが全国各地でありまして、私も農水大臣の時に、現在も難航しております熊本のダムの問題がありました。実はこのダム問題というのも、非常に政治的だったわけでして、1950年代にアスワンダムをナセルが作る時に、アメリカが最初、支援をしたわけですが、ナセルエジプトが、反米、どちらかというとソ連に近い中立化政策を取ったことにアメリカが激怒しまして、それでアスワンダムを何とか潰しちゃおうと考えたわけです。潰す原因として、当時のアメリカの水学者や今でいう環境学者が、「ダムというのは悪いもんだ」と言い始めました。アメリカは今、世界で一番ダムを作っている、持っている国なんですが、アメリカらしく、エジプトを困らせるために、ダムを悪いんだ悪いんだということを世界中に宣伝をしました。
 日本も当時、どちらかというと先進的な人たちが「ダムが悪い」ということを言い始めて、ダム問題が50年代60年代に発生してきました。その一方でアメリカは依然としてダムを一所懸命作っておりますし、中国、インドも作っているわけです。まあダム問題の切っ掛けは、今述べたような東西冷戦時代の政治的な思惑からスタートしたということのようです。
 さて、日本の水利用状況については、全体の降水量から蒸発量とただ海に流れる量を除くと、残っているのが852億トンですけども、利用の内訳は世界平均とだいたい同じで、60%から3分の2が農業に使われております。これは途上国でもあるいはアメリカ、ヨーロッパでもだいたい同じようですけれども、工業化の比率が低いとかいった問題はありますが、だいたい農業に6割ぐらいが利用されるということで、これは世界と同じぐらいのバランスです。
 穀物を作るためにいかに水がいるか、そして穀物を食べさせる肉類のためにいかに水が使われているかという問題については、データによって若干の違いがありますが、良く言われているのは、小麦1キロ作るのに水が2トン必要だとか、牛肉1キロ作るのに掛ける10倍で、穀物の十数倍ということで水が20トンいるというのが私の手元のデータです。
 例えば、牛丼を1杯作るのに2千ℓの水が必要であるというように、我々が食べている小麦や肉類にいかに水が使われているかということを改めて、認識をしておく必要があるんじゃないかと思います。
 良く言われているバーチャルウォーターについては、東大の沖教授が大変ご苦労されて計算した試算によりますと、日本はご承知の通り世界一の食糧準輸入国ですので、これを水換算しますと、輸入量が640億トン、食糧のために水を輸入しているということです。国内の年間の農業用水の使用量が566億トンですから、そういう意味で水も、やはり自給率が半分以下となります。
 沖先生に工業用水の水換算も試算して下さいとお願いしたんですけど、工業用水は試算が難しくて、例えばアルミニウムを作るために、あるいは木材製品を輸入するためにどのくらい必要かというのは、現段階では沖先生も計算ができていないということでして、あくまでも食糧のために作られる、食糧に投入される水の投入仮定推計になるわけですが、これは環境白書にも引用されておりまして、我々が水を勉強する時の一つの大きな柱になっております。
 日本ですらそういうわけですので、特に発展途上、貧困に苦しんでいる国々では、水というものが非常に貴重というか、不足しているわけです。安全な水を確保できない人達が11億人もいて、その大半がアジア地域の人々です。これがあと30数年すると、また10億人ぐらい増えるんじゃないかとか、データはすべて悪い予想ばかりです。
 安全な水が利用できない。それから、「水を汲みに行くのに女性や子供が大変な労力そして長い時間をかけて、水確保のために苦労しているという地域が世界に沢山ある、これが女性の地位向上や教育に悪影響を及ぼしている」ということを、皇太子殿下も大分での講演で仰っているような問題もあるわけです。
 そして、下水道についても非常に今、問題でありまして、満足にその衛生を確保できる下水道がない人たちが、地球上で26億人、4割弱いらっしゃるということであります。そして、1日5千人の子供達、恐らく5歳未満の子供達だと思いますけれども、確か世界で160万人、15秒に1人、子供達が水関係で、病気になったりして命を奪われているということです。
 水と直接の関係はありませんが、1日1ドル以下で暮らしている人達がまだ11億人いるとか、8億6000万人と推定される、飢餓に苦しんでいる人を半減するというFAOの計画がありますけれども、このスケジュールがなかなかうまくいかない。ほとんど横這い状態だというのが現状です。
 日本もアフリカあるいは東南アジアに色んな支援をしておりますけれども、なかなか難しいわけでして、まず衛生とか薬とか、そっちから始めないと農業支援とか、あるいはダムや河川の補修とか、港の整備までいかないという状況です。アフリカでは、日本の技術でインドのお米を改良したネリカ米というのものが非常に効果的であるという実績もありますけれども、色んな問題があり、非常に難しい状況だということです。
 アメリカで非常に大きな問題となっているものに、カリフォルニアとの国際穀倉地帯に水を引っ張って行くオガララ帯水層があります。いわゆる化石水といって、昔は海だった地域の海水が現在では巨大な地下水タンクみたいになっていまして、密閉状態でほとんど水が補給できず、残りをただ吸い上げるだけという状態になっています。
 たまに雨が降ると、それが地下に行くんですけれども、逆に毛細管現象で地上に上がってきてしまい、塩害等の被害も出ているようでして、地下水位が4メートルも低下しているそうです。
このように世界中に水問題がありますが、日本にとって一番大きな問題は中国の水問題です。
 以前にNHK特集でやっておりましたけれども、中国は北京オリンピックを成功させるために、とにかく北京に徹底的に水を集めるそうです。そしてその政策のために、目の前にある水を農村地帯が利用できないという大変悲惨な状況のようです。農村地帯では水を全然確保できないのに、北京では家にバス・トイレが2つも3つもあったり、あるいは巨大な噴水が1年中吹き出していたりするわけです。片一方では水泥棒が―水警察というのもあるんだそうですけれども―汚い水を利用して農産品や工業品を作っているわけで、水における非常に極端な格差が広がっているわけです。2010年には上海万博がありますけれども、北京と似たような状況になっていくんだろうと思います。
 黄河はご承知の通り、断流が何カ所もあるということで、大気も汚いし、水も汚いし、7大水系の水質の悪さ、Ⅴ類というのは一番悪いわけですけれども、それが3割以上になっているということです。
 因みに日本にとっても大きく関係してくるオーストラリアの大干ばつについては、私が10年前に農水大臣をやっていた時は自給率が400%だと彼らは自慢していましたが、去年について聞くと、220~230 %しかないということです。穀倉地帯南東部の小麦地帯に、ほとんど水がない地域がどんどん増えてきているそうです。だからガレージの水を撒いちゃいけないとか庭の芝生に水を撒いちゃったら罰金取るとか、そういう地域がどんどん増えてきているようです。
 私が一昨年、農水大臣だった時にサウジアラビア、アラブ首長国連邦へ行き、両国が淡水化を非常に熱心にやっていることを知りました。それはそれでいいんですが、ホルムズ海峡の内側でやるもんですから、塩分濃度がどんどん上がってきちゃって、生態系がもう変わっているとか、あるいはサウジアラビアの地下にある化石水の大きな層を汲み上げて、麦を作ってヨーロッパに輸出しているという実態があります。だから私は、「そんな馬鹿なこと止めろ、あんたのところは金も石油もある一方で水は限られているし、淡水化も雨水利用も限界があるんだから、是非水の技術を節約に向けるべきだ」と言いました。日本では水は比較的豊富だけれども資源がなく、中東は逆だから、お互いにウイン・ウインの関係にしていかなければならないということで、小麦のヨーロッパへの輸出を止めさせました。
 日本は、水技術について歴史的にも大変高い伝統技術も持っておりますし、先端技術も持っています。膜の技術とか、細いファイバーの繊維の中に水を通して濾過する技術とか、こういうものに関して非常に日本は進んでおります。現在は文字通り地球規模の大問題ですので、世界に貢献できる技術、経験人材を持っている国として、是非とも積極的に貢献していくべきではないかという提言をしました。当時は参議院選挙の直前だったので、党の選挙公約に入っております。
 ただビジネスとしてはまだまだこれからでして、世界の水道水事業というのはフランスの2社とイギリスの1社が、ほぼ市場を独占しています。これはシステムとしてやっているからでして、日本は単体としての技術は世界一なんですけれども、システム技術やビジネスとしてきちっと水道事業に進出していくというところが、まだまだ遅れていると私は理解しております。日揮とか東レとか帝人とか、こういったところの技術は凄いんですけれども、水技術というのは非常に、ある意味ではビジネスチャンスではないかなと思っております。
 何れにしても水というのは、非常に貴重な資源です。日本でも節水技術が大変進んできまして、例えばトイレについても、20年ぐらい前は1回ジャーと水洗流すと20ℓ使っていたのが最近では10ℓを切って、ついに某トイレタリーメーカでは5ℓを切るようなトイレも発売されているようです。他にも、これは北海道の技術なんですけども、水を使わない水洗―水洗じゃないですね―水を使わないトイレ。つまりバイオで分解しちゃうという技術があります。
 私が見に行ったサハリンの石油プラントでも、北海道の旭川の技術なんですけれども、これがある意味では、今後、家庭用にも利用できるのではないかということで、水を使わないあるいは極端に水を節約するような分野は日本人の得意な分野だと思いますので、ビジネスとしても、今後益々、大いに展望があるのかなと思います。
 何れにしても来年の北海道洞爺湖サミットでは、貧困問題と地球温暖化問題がテーマですので、関連して水問題も、それからアフリカ支援も大きな問題になります。
 以前エビアンの工場を見てまいりました。これはそもそもアルプスに降った雪が300年かかって溶けてきた、ジュネーブの反対側のフランスにほとんど無尽蔵に流れてくる水を、加熱も殺菌も一切しないナチュラル・ミネラルウォーターとして出荷しているわけですけれども、先日オランダの皇太子殿下が、アルプスの温暖化でライン川が洪水だと仰っていました。逆の方に流れてくる水を使うエビアンというのは生産が減るんじゃないかという危惧をしている人もいます。
 それから水の質についてです。水の質は安全だということが大前提ですが、硬度の問題もあります。日本はどちらかというと、軟水地帯です。ただ、西南のほうへ行けば行くほど、硬度が高くなっていくということで、関西やそれから山口、九州に行けば硬度が高くなってきます。でもヨーロッパ辺りの、目茶苦茶硬度の高いものに比べれば軟水地帯ですし、まあ何でもかんでも輸入した硬度の高い水で料理を作ったりお茶を沸かしたりすると、今度は味が全然変わっちゃうということもありますので、地産地消ということが水にも言えるんだろうと思っております。
 水利権の問題は、農業用水、工業用水、飲用水を含めて、非常に難しい問題でして、そもそも水利権というのはもう何百年も前からある、非常に伝統的な、日本で一番強い私権とも言われているぐらいですけれども、一度勉強してみる必要があるのかなと考えておりますので、先生方と一緒にこの水関連問題について、今後も一緒に勉強をしていきたいと思っています。
本日はどうもありがとうございました。(拍手)