2007年末・昭成会(79回)での講演より
◆戦後と内閣総理大臣
久しぶりにSPのいない生活になり、自由を謳歌していると言いたいところですが、いろいろ細かい仕事に追われる毎日です。
麻生さんと共に「冷や飯クラブ」になりましたので、いっしょに勉強を兼ねて全国のいろんな所に行ってみようと計画しております。
3週間ほど前に安倍前総理のご自宅に伺いましたが、とてもお元気でした。
近い将来、満を持して颯爽と表舞台に出てきてもらいたいと思っております。安倍さんがやろうとしていたこと、たとえば教育の問題、日本の地位を向上、地方の活性化、日本の真の安全保障を確立など、いずれも重要なことですから、これからも続けていかなければならないと思っております。
これまでの60年間で、歴代の総理大臣は一生懸命に日本を築いてきました。
吉田総理はそれまでマイナスだった日本経済のリーダーシップを取ってこられました。
鳩山総理は直接的な日本の危機を日ソ共同宣言や国連加盟で凌ぎ、岸総理は日米安保を充実させ、そして高度経済成長の中で池田総理がさらにそれを推し進めていき、日本のGDPは世界第2位まで上がりました。
佐藤総理の時には「もはや戦後ではない」ということで、沖縄返還や日韓共同宣言を確立していったわけであります。
田中総理は日中国交回復を成し、中曽根総理は国鉄や電電公社の民営化で労使間の対立を崩壊させました。
一応それをもって戦後は終わったのだろうと思います。
◆時代に合わなくなってきた戦後制度
ただ60年が経ち、制度そのものが時代に合わなくなってきました。
たとえば憲法も教育基本法も、ひょっとすると公務員制度もそうかもしれませんし、省庁のあり方についても時代の流れに合っていないのかもしれません。
私は経済産業大臣と農林水産大臣を歴任して感じたんですが、WTO交渉の場で日本の二人の大臣、外務大臣も入れて三人の時もありますが、いずれにしても日本から数人の大臣が、しかもそれぞれの通訳を従えて交渉に臨むというのはあまりカッコのいいものじゃないと思っています。
やはり、通商の上でも一本化するべきではないかと内心で考えていました。
最近はこの通商問題にしても、バイオ燃料の問題、地方における中小企業の活性化にしても、経産省と農水省はなかなか上手くやっている印象を持っております。
民間でできることは民間に任せる時代ですから、オールジャパンの形でやらなければいけないと思っています。そして民の力を政府なり政治が後押しできる形にしていくことも考えた方がいいのではないかと思っております。
水環境を例に考えると、農業用水や工業用水、上下水道、環境などそれぞれ扱っている役所が違うので連携していかなければならないわけですが、これなどはどこかにヘッドクォーターをおいたほうがいい。
世界花博覧会をやる時もそうでしたが、農林省と旧建設省のそれぞれが主幹となってやるのではスピーディーにいきません。
そういう意味でこの戦後体制は、賞味期限というか品質保証期間がすでに切れているのではないか思うことがいくつもございます。
◆新しい軸
我々は安倍さんと共に歩み、その安倍さんが一休みといった状況になってしまいました。しかし、我々はけっしてこの歩みを止めてはならない、という気持ちでありまして、そのための勉強会を立ち上げようとしているところです。
この勉強会の件が報道された途端に「反福田だ」とか、「この勉強会に参加した者はすぐに派閥から出て行け」と大騒ぎになっているようですが、あくまでも純粋な勉強会でありますから、私にすれば大騒ぎするほうが不思議であります。
マスコミにとって、平沼さんがこの勉強会に参加することに大きな意味があるのかもしれませんが、平沼さんは青嵐会を作った私の親父に大変に世話になったということで、私の後見人のつもりで参加してくれております。つまり主義主張以前の心情的な意味合いでご参加いただいているわけです。
とは言っても、この勉強会が、今の流れの中では“やや異端的存在”として見られていることは承知しております。ただ、自民党の議員全員が大政翼賛的でいるのも変だと思いますので、少し違う観点から自民党らしさを出しつつ、福田内閣を支えていきたいと考えております。
◆2007年・経済と金融で思うこと
本日は、年末ですので、日本経済や世界経済、または金融などについて自分の考えていることを少しお話したいと思います。
言うまでもなく日本の景気は依然として良くありません。良くない最大の原因はデフレ状態から全く脱却していないことであります。デフレという異常な状態が10年も続くと、さすがに慣れてしまいますが、デフレそのものは日本経済にとって極めて異常な状態であります。
ある野球の球団のオーナーが「平時にデフレを解決する方法はない。歴史的にデフレを解決したのは戦争だけだった」などと半分暴論を言っていましたが、そのとおりなのかもしれません。
経済の高度成長が終わり、少子化などのような成長率を押し下げる潜在的要因の多いなかでは、成長率を維持するだけでも困難です。まして一旦このデフレに入ってしまうとなかなか抜け出すことがむずかしい。
いわゆるデフレーターをある程度確保するために日本は十数年間もがき続けているわけであります。
少し良くなったかと思うと中東で何かが起きたり、どこかで災害が起きたりといった外的な要因が現れる。実質成長率が名目成長率を上回っているような状況はファンダメンタルズにおいて一番の問題だと思います。
私が経済産業大臣として経済財政諮問会議に出席した時に、日銀総裁はよく、
「景気は底堅く成長しております」
など美辞麗句をいろいろ言っていました。
そこで、私が、
「デフレーターがマイナスなのはどのように説明するのか」
と訊いたら、
「日本には技術力があり、液晶テレビなど先端の製品であって良いものが安く出来るのだから、当然物価も下がります」
と答えたわけですが、私は日銀総裁よりは経済の素人でしょうが、この答えに唖然としました。
高度経済成長やバブルの時代には、物価上昇率は着実にプラスであり、名目成長率が常に実質成長率を上回っていました。
いくら価格性能が良く、川上のほうでコストがどんどん下がっていくとしても、このギャップを解消しないかぎりは先進国として経済の指標を世界に示すにはあまりにも恥ずかしいのではないか思っております。
日本の経済状況は非常に厳しく、しかも企業間や地域間の格差が広がっていて、労働分配率の低下による賃金の格差もますます広がっております。
それに加え、今は、外的要因として石油の問題、サブプライムローンの問題などがあります。
そこで、これらを例に、「外的要因」と日本経済について、考えてみたいと思います。
(つづく)