(11)米国産牛肉問題(下)机たたいて激論
《政府は、2006年1月に発生した牛海綿状脳症(BSE)特定部位の背骨混入に伴う米国産牛肉の全面輸入停止を半年間続行。日米で再発防止措置を詰め、7月27日に輸入再開を決めた》
私はとにかく、原因究明と再発防止策を米国に強く求めた。これを徹底的にやらないと、日本の消費者の信頼回復にならない。米国側は詳細な報告書を送ってきたが、背骨混入は基本的に「単純ミス」との立場だった。でも、こっちはBSE特定部位除去と月齢20カ月以下を義務付けた輸入条件を守れない「構造的な問題」の懸念もあるから、報告書を十分精査し、追加説明も何度も求めた。
だけど、米国側はだんだんいら立って、早く輸入再開をしてくれという声を高めてきた。WTO(世界貿易機関)交渉の主要少数国(G6)閣僚会合などでジョハンズ農務長官と会うと、必ずこの問題が出るんだ。
ある時、スイスのジュネーブで会った際に、ジョハンズ長官が「われわれは一生懸命やっている。輸入再開を早くしろ」と怒り始めた。だけど、こっちも2度と同じ問題が起きたらたまらないから、机をたたいての激論になった。お互いに背負っているものがあったからね。
半年かけて日米間でやっと改善措置の確認ができた。さらに、国内の消費者とのリスクコミュニケーション(意見交換)や、米国の日本向け食肉施設の現地調査もやった。こうした一つ一つの手順を積み重ねた上で輸入再開を決めたわけですよ。
《一方で、中川昭一農相は日本の食文化、食育を重視するメッセージを積極的に発信した》
マスコミも国民も、食への関心が高くなった。私自身ずいぶんとテレビやイベントに出演したね。また、朝ごはん抜きや偏った食事はいけないなどの食育の推進では、服部幸應さん(料理評論家)、三国清三さん(仏料理シェフ)、竹下景子さん(女優)、島崎和歌子さん(タレント)らにも助けていただいた。
日本食は今や、世界的に人気がある。それがどんどん広がっていくのはいいんだけれど、肝心の日本で日本食、日本の食文化がもっと発展しないといけない。消費者の食への関心が、農業の理解につながり、都市と農村の共生のベースになったらうれしいね。私と親しい芝田山親方(元横綱・大乃国)は、弟子たちに新潟県で米づくりをさせている。相撲部屋には米の保存庫があって、自分たちで作った米を食べてますよ。