日本経団連「自由民主党と政策を語る会」での講演録(5月21日)


わが党の政策に関しては、安倍総裁のリーダーシップの下、①地方と世界とを有機的なつながりを意識して考える空間的な視点、②緊急にやるべきことか、来年度の制度改正でやるべきことか、中長期的な視点でやるべきことかといった時間的な視点、そして何よりも、③普遍的に重要なテーマかどうかという普遍性の観点から、整理して取り組まなければならないと考えている。
現段階では、来年度の骨太方針等々に向けた作業を進めると同時に、参議院選挙に向かっての政策づくりに取り組んでいる。
いわゆるマニフェストについては、わが党は、過去、衆議院で2回、参議院で1回、策定・公表している。わが党では、衆議院選挙においては政権をかけた公約ということで「政権公約」と呼んでいるが、参議院選挙においては「選挙公約」という呼び方をしている。
政権公約2003では、130項目の実現を国民に約束した。この130のうち、2005年夏までに35項目を実現した。そこで、政権公約2005では、残った95項目に加え、25項目を追加し、120項目とした。このうち、現在までに、31項目を実現している。したがってのべ数では、155項目のうち、66項目を実現しており、達成率は42%となる。現在開会中の通常国会でこれから成立する法案もあるので、今後さらに達成率は上がるだろう。
参議院の「選挙公約」については、今月中の決定を目指して、先週、各担当部会で取りまとめた。参議院の立候補予定者の要望も聞きながら決定したい。その際は可能であれば改めて説明の機会をいただきたい。
経団連の優先政策事項に関する取組みは以下の通りである。
財政については、公約に明記したとおり、更なる歳出歳入一体改革により、2010年代初頭に基礎的財政収支の黒字化を実現する。社会保障については、税と社会保険料を合わせた国民負担率50%以内を歯止めと位置づけ、これを維持する。平成19年度予算には税収増があるが、特に歳出改革を貫き、国の一般会計の基礎的財政収支の一定の改善を果たした。引き続き、この努力を続け、2010年代初頭の基礎的財政収支を確実に黒字化する決意である。
社会保障制度については、世代間の公平性を確保し、制度の持続可能性を高めるために、これまで年金介護医療の各制度の改革に努めてきた。今後も給付の伸びを抑制するための改革努力を続けていく。医療提供体制の整備については、医師の偏在問題に対応するため、私自身が責任者となって、現在党で検討中である。
税制については、党の税制調査会で議論中である。経済活力、国際競争力強化に留意しながら、本年秋以降早期に本格的かつ具体的な議論を行い、平成19年度を目途に、社会保障給付全般にかかる費用の見直しを踏まえ、消費税も含め、税体系の抜本的改革を実現するべく取り組む。急速な少子高齢化への対応は、経済活力という観点から極めて重要である。少子化対策として経済的制度的支援の検証を行っていく。
エネルギー政策と環境政策は一体的に進める。わが国の脆弱なエネルギー供給体制を是正するため、開発、新規エネルギーの普及拡大、省エネルギーの徹底を、総合的・戦略的に進めると共に、環境に配慮した所要の施策を措置し、環境ビジネスの振興・促進のために、環境研究・技術開発の一層の開発普及を図るため、競争的資金を拡充すると共に、地域の産学官連携による環境技術開発を促進していくための予算を措置していく。日本は言うまでもなく世界一の省エネ国家、世界一の環境に優しい技術を持った国家であり、これらを更に推し進めると共に、ビジネスとして世界に貢献できる観点からの企業努力を支援したい。資源環境制約の高まる中で、電力の安定供給のために、原子力発電を安全確保を大前提に、基軸電源として位置づけたい。更に設備効率性、安全性に一層の配慮が必要だ。
労働政策については、少子高齢化という社会の変化に対応する政策が必要だ。性差別禁止の範囲の拡大を内容とする男女雇用機会均等法の改正が成立し、本年度より施行される。昨年より、改正高齢者雇用安定法により、高齢者雇用確保措置が雇用者に義務付けられている。今年度から「70歳まで働ける企業推進プロジェクト」を実施すると共に、中小企業に対して65歳以上への定年引上げ促進のための助成措置を講じる。ホワイトカラーエグゼンプションについては、党の雇用生活調査会において、わが国の事務系労働者の働き方に対応する労働時間制度のあり方について、引き続き検討を行う。また、全てのパートタイム労働者を対象に、働き方の実態に応じた通常の労働者との待遇の均衡ある待遇の確保、通常の労働者への転換の促進等を図る、パートタイム労働法の改正案を今国会に提出した。さらに、ニート・フリーターをはじめとする若年雇用の問題、外国人労働者の問題にも鋭意取り組んでいく。
都市再生・地域活性化等については、中小企業再生支援協議会を活用した中小企業の再生・連携、街づくり交付金と連携した支援策の拡充・交付金の事業規模の拡大を図る。また、大都市圏の交通物流などの基礎的基盤の整備に積極的に取り組む。
貿易立国である日本にとってWTOとEPAの交渉は重要である。WTOについては、交渉結果が日本にとってプラスになることとともに、ドーハ開発ラウンドの趣旨からして真に困っている途上国に対していかに配慮するかという2本の柱がある。バランスの取れた先進国と途上国、輸出国と輸入国の関係、各分野におけるバランスが重要だと考えている。現在、OECD、G6、G4と色々な会議が行われているが、年内の基本合意成立に向けて、かなりモチベーションが高まってきている。交渉に当たっては、米国、インド、真に困っている途上国、そして日本、それぞれの立場がある。日本としても、国益のために、守るべきところは守り、譲るべきところは譲り、そして、攻めるべきところはきちっと攻めながら交渉していく。安倍総理を中心に、閣僚レベル、事務レベル、ジュネーブレベルで鋭意交渉している。ここ5,6月が大きな進展への重要な時期となる可能性が高い。
GATT20条に基づくEPA/FTAについて、日本が出遅れたのは認めざるを得ない。貿易立国である以上、他国に先駆けてEPA/FTAを展開していくことが重要だ。もちろん、締結するEPA/FTAの質も重要だ。日本は、現在、アセアン、オーストラリア、スイス、GCCといった国・地域との交渉をしている。win-winの関係の構築という観点から、攻めるところ、譲るところ、守るところをきちんとバランスを取りつつ、質の高いEPA/FTAを締結する必要がある。EPA/FTAについては、GATTウルグアイラウンド交渉の時のように、産業界と農業界、都市と農村の対立の中で行う交渉ではないと思っている。今後とも経団連とより密接に意見交換しながら交渉を推進していきたい。
国民投票法が成立し、教育再生三法が衆議院を通過し参議院で鋭意審議中である。公務員制度改革についても皆様の意見をいただきながら国会で審議中である。公務員制度改革については中馬行革本部長もお越しなので、ご質問があれば説明したい。
最近の緊急課題として、医師不足、意思の偏在、患者や地域と医療のミスマッチの問題に政府・与党ともに積極的に取り組んでいる。
また、先週一週間でも大変悲惨な事件が連続して発生した。子どもが親を殺し、親が子どもをピストルで撃つという事件も続発している。わが国が誇った世界一「安全安心の国家」が、まさに先週一週間だけでも危機的な状態に陥っている。安倍総理は世界一安全な国家を目指して必死に取り組んでおり、治安・犯罪対策にも党として緊急に取り組んでいく。
いわゆるふるさと納税については賛否色々議論がある。税制のあり方の問題、税収の配分の問題、寄付税制のあり方の問題など、色々な論点がある。ふるさとを思う人の気持ちを活かせるような制度にするべく、税制面、税のやりくり等を考えたい。これは、都市と農村の対決というふうに矮小化すべき問題ではない。
安倍総理の下で集団的自衛権の懇談会がスタートしたが、党内では既に昨年秋から専門家が議論している。政府の公式の懇談会を横目で見ながら、党としても何が出来て、何をしてはいけないか、そもそも何をすべきなのか、検討していきたい。憲法改正で対応すべきかどうかについても色々な意見がある。党内で鋭意議論したい。
以上、自民党としての公約を説明したが、我々は連立政権である。わが党はわが党の固有の選挙公約を発表するが、連立政権としての公約も取りまとめる予定だ。自公それぞれの公約については、自民党と公明党が真っ向から対立するような内容にはしないが、重点の置き方などで、それぞれの特色が出てくると思う。
空間的視点をもった政策展開ということでは、地域活性化の問題に積極的に取り組んでいる。お手許の資料は、各役所で行っている地域活性化対策を、受け手の視点からまとめたものである。政策を縦割りで展開するのではなく、横串で国民に分かりやすい形で実施するように整理した。都市再生や中心市街地、構造特区、地域再生、市場化テストといった政策について、各省別に拾うのではなく、各省の取組みを一覧的に示し、国民の分かりやすい形に整理している。地域活性化関連の諸施策については、専門の相談窓口を設けるとともに、各地方に対して、各種政策の説明のために政府・民間の担当者の派遣を行っている。すでに1300名ほどの方に登録いただいている。その一環として、昨日は河村政調会長代理が九州の五島列島を訪問して政策の説明をし、私も昨日は山形、おとといは北海道、今日は大阪、先週は宮崎と、毎週、政調のメンバーが飛び回っている。ぜひとも国民の皆様に活用してもらいたいと考えている。
以上が、現時点での報告である。本日の議論を通じて、より良いものが作れるよう、経団連の皆様にご指導いただきながら、安倍総裁の下で取り組んでいきたい。