久しぶりで、東大の五月祭りに来た。そしてこの25番教室、大変懐かしく思っています。本当に2~30年ぶり。座席が緑色で新しくなったこと以外は懐かしく思っている。この25番教室、私は余り真面目に授業を受けてはいなかったので、遅れてきて一番後ろの方で講義を聞き、途中で出て行く。試験の時は緊張して入ってきた。司法試験を一度受けたことがあったが、それもこの25番教室だった。今日は東大の優秀な○○研究会の皆さんにお招き頂きまして、こうした話をさせて頂く機会を頂いた事を嬉しく思っている。今日は何を話そうかと、東大の方もOBの方もそれ以外の方もたくさんいらっしゃる。しかし、私の視点は東大の学生さんに私が今考えていることを伝えること。今政治家としてやっていることをご紹介をしたい。後でご質問をいただけるという事で楽しみにしている。
昨晩お話しすることを考えまして、タイトルを後で考えたんですけれども、東大の学生さん、もっと自分を知って下さい、世界を知って下さい、そして誇りをもちなさい、そして緊張感を持って下さいと。誇りだけでも緊張感だけでも駄目。やはり東大なら東大の歴史、優秀な先輩先生、皆さん方がいらっしゃる。ぜひ適度の緊張感と誇りを持って、自分をしっかり知っていただいて、今後の長い時間、可能性の一つに生かして頂きたい。
昨日本棚を見ていたら、三十数年前に買った本がありまして、それを取り出してぺらぺらとみていた。タイトルは『三島由紀夫と東大全共闘の対談』。これは1969年の5月駒場の教室、70年安保の前。三島さんは70年の10月25日に市ヶ谷の自衛隊に入り、最後血決起を促したんですけれども、断られて割腹自殺をした。現役の学生さんには馴染みの少ない事件ですけれども、新聞で号外になった。これは住居侵入ですとか、腹を切った時に後ろに居た三島の隊員が日本刀解釈をしたもんですからそれが殺人幇助と。私も『金閣寺』とか『宴の後』とかを読んだ。この人がこういう亡くなり方をするというのはショックだった。その前に対談本。東大全共闘の方と三島さんの対談ですから、大変難しい。価値とは何かとか、暴力とは何かとか、大変哲学的な議論でよくわからない。私自身の能力をこえたものであった。ただ、全共闘と三島さんとの共通点は、戦後のレジームを脱するということ。全教闘と三島さんというのは途中の思考回路が全く違うわけですが、しかしこのままでは日本は駄目になる。駄目にしていくのは戦後の知識人、保守的であろうが左翼的な思想であろうが、とにかく戦後の知識人が日本をひっぱっているのが駄目だという事で、途中激しい場面もあるが、大変前向きに議論が進んでいく。特に大学生の時に読んだんですが、50過ぎた今でもよくわからない。全共闘はけしからんと思っているが、三島さんときちんと議論がかみあっているということは、彼らなりに暴力であろうが、暴力であれこれ壊したのは許せませんが、今考えると彼らなりに考えていたんだなと。だから三島さんとの議論がそれなりにかみ合っていたんだなと考えている。大変この機会をきっかけに私も大学時代にそれなりに物事を考えていた時のきかっけとなった三島さんと全共闘の対談の本を読み返すことができた。
さて、私は政治家ですから、目の前の仕事を色々やっているわけでありますけれども、私の仕事は自民党の政策責任者。あらゆることの政策判断を最終的にし、党内の手続を終え、その前に安倍首相と相談して方向性を決めているんですけれども、どうしても日々の仕事に追われる。今日はNHKの政策討論会に出てきまして、これだけ大きな講演、あるいはTVがありまして、1つやるだけでも前の晩付け焼刃でやりますので、かなり時間がとられるんですが、今日はNHK、そして東大の皆さん方とのご対面という事で、2つありましたので、一晩必死になって自分の考えをまとめてきた。そういう中で、自分は今何処にいるんだろうかと。常に自分の足元を見ていかなくてはならない。しかし、一時期永田町では、足元が定まらない事を「風見鶏」と批判した時期があります。総理大臣になるずっと前から、中曽根さんはクルクルクルクル田中さんを見たり、別の方を見たりして政治家としてあるいは議員として信頼が置けないと批判された時期がある。しかしあの人は総理大臣になって、6年間、それまで自分の掲げた事を実現した。あるとき中曽根元総理に「風見鶏と言われた事をどう思いますか?」と聞いたことがあるんですけれども、そういう風に言われるのは結構だと。確かに風見鶏は360度回転する。しかし、軸は動かない。軸がしっかりしながら、常に風向き、情勢情報を見ながらやっていたから、根無し草、どこに飛んでいくか分からないといわれるよりは大変嬉しい。嬉しいというかそういう評価だとおっしゃっておられた。私も日々野党、マスコミ、色んな人と話しながら議論をしたり、意見の違い、あるいは「なるほどな」という機会が随分ある。その中でも今の皆さん方の自分史、あるいはまた自分の中での価値観があるわけでありますけれども、ここで皆さん方と私とが意見が同じかどうかという事は別にして、たまたま今は同じ土壌に居る。目の前に居る。たまたま私の方が高いところにおりますが、私は何百人の皆さんの視線を浴びて、そして皆さん方のお考えになっているだろうことが伝わってきている。それに負けないように、押し倒されないように、何とか皆様方に自分の考えていることを発信して、照射してみたいと思っている。
現在の日本。日本のGDPは世界のGDPは47兆ドル~8兆ドル、日本は5兆ドル前後、日本は円ですから、為替レートの換算によっても随分違う。世界の12~3%。バブルの頃が15~6%。お隣の中国インド等の発展、日本の低迷の中で、今は12~3%。現時点では世界第2位。しかし、EU27ヶ国を全部足し上げて1つの経済大国とすると、日本は3位になるし、10年後20年後30年後には中国がドイツを抜き、日本を抜いていくでしょう。インドもそうなる可能性がある。
国土面積が0.3%。人口は約1億3000万。2%。つまり、2%の人口で0.3%の国土で12%の経済があるというのは、国民一人一人の力の発揮、経済的な存在感が大きい。悲惨なアフリカは53ヶ国有る。それぞれのGDPを足しても1兆6000~8000億ドル。世界のGDPの約5%。アフリカ53ヶ国の内、南アフリカは大国で三分の一。エジプト、お隣のモロッコを足して、三分の一。南アフリカ・エジプト・モロッコで三分の二、残り50カ国で5%の三分の一、1,5%のGDPを50カ国が作り上げている。それだけアフリカは貧しい。大変なんですね。人口は6億人くらい。この3ヶ国を足すと1億5000万人くらいなので、残り4億5千万人、で、人口で言うと8%くらいの人が世界のGDPの0.3%しか活動して居ない。しかも、その経済形態は貧困。輸入はお金があれば食料品、自動車、機械、電気製品何でも買える。じゃぁ、輸出品目は何かというと、だいたいコーヒー、砂糖、綿花、あるいは鉱産物。しかも、それぞれの国の外貨を稼ぐ90%を占めている。まことにオンリー・ワン・プロダクト、エクスポートカントリー、そういったものしかない。そして国際市場がある。ちょっとした過剰、ちょっとした災害で予算が入らないと、たった1つしかない自国の輸出品目で大きな影響を受ける。私達も、アジアの隣国も大事でありますけれども、有る意味世界のブラックボックスとも言えるアフリカというものを、こんな人達もいるんだという事を、現実にこの瞬間にも生きて、食べ物も無い人たちが世界中には大勢居るんだと言う事を知りながら、我々は日々の暮らしを見つめていくべきだと思う。そして、面積は世界67番目の狭さでありますけれども、しかし、日本には広大な排他的経済水域、経済的な主権が及ぶいわゆるEEZがある。これは470万平方キロメートルくらいある。国土の12倍くらいある。世界で第6番目の、海洋大国である。海洋というのは、海水、海洋に貴重な資源が眠ったままであります。そして、日本の場合は、日本海溝とか沖縄海溝とか1万メートル級の深い海溝がある。そのため、面積では6番目ですが、体積だと世界で4番目になる。この海洋空間を今後色んな意味で活用していくというのが、日本の生きる道だと思っている。それを、「俺の物だ」と言ってとられそうになったら、国際法にのっとってきちっと対応していく。お互いに交渉し、平和的に解決するのが大事だろうと思いますが、譲るところは譲りますが、譲らないところは譲る必要が無いと思っている。
日本は貿易立国であります。ご承知のように、食料は世界一の輸入国。カロリーベースで40%。我々の体の6割が他の国によって養われている。あるいは、エネルギーも2%。あらゆるものを世界中から輸入しています。繊維製品、ガラス、全部世界中から貿易を通じで輸入をして国民が暮らしている。同時に、輸出をして外貨を稼がないといけない。幸い日本には、資源も国土もなくとも、優秀で勤勉な国民が居ます。この人たちが頑張った結果、日本は材料、石油・天然ガス等を8億トン輸入していますが、輸出は1.5億トンであります。物量的には五分の一くらいしか輸出をして居ない。その分どうしているかというと、内需に変わったり、エネルギーは消えたりするんですが、日本は82兆円輸出して、75兆円の輸入となる。8億トン輸入の1.5億トンの輸出。しかも外貨が、貿易収支7兆円黒字になる。これは付加価値ということになる。日本は外貨準備高世界一位の国だった。毎月毎年500億ドルずつ外貨が増えている。しかし、日本も投資とか外国へ旅行するとか、国際収支はマイナスの部分も出てくる。最近はGDPという言葉、GNPという言葉だけでなく、GNI、グロス・ナショナル・インフラという形で指標を出すのが、アメリカやEUや日本にとっては一番正確だというデータも出てきている。お隣中国は年間3000億ドルずつ外貨が上がっている。つい数年前までは大変に外貨準備が少なかった。1位日本、2位台湾、3位ドイツという感じだったんですけれども、あっというまに1兆2000億ドルまで外貨が上がっている。これは危ないんじゃないかという指摘も有る。日本の状況、さらには日本の特徴的なところは、平均寿命が世界一、特に女性は世界一。男性は世界4位。これは厚生労働省の推計によりますと、2050年の日本の平均寿命は、男性がやっと女性に追いついて85歳くらいになる。ところが、女性は90歳になっている。男性は女性に追いつけない。第二次世界大戦が終った頃も、女性が50歳、男性が45歳。この5歳の差は50年たっても縮まらない。なぜ縮まらないのか、これは石原慎太郎さんが言っていることなんですが、男はネクタイで自分の首を絞めてるからだと言っている。
世界はどうか。世界は66億人の人が居る。そこで今、我々の世界はどういう状況に置かれているか。現在の国際法が確立されたのは17世紀の初め、法学部の諸君はご存知だと思うがオランダのグロチウスという人が近代の国際法を確立した。他方、この次期は30年戦争が終りまして、ウェストファリア体制ができて、戦争の放棄と言うルールを決めようとした。これはヨーロッパの中だけの話でありまして、スペイン、ポルトガル、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアが植民地支配の為に世界に行った。これは悲惨なものもあった。ヨーロッパのファーストクラスの国々の間では、ルールを前提にやっていこうということになった。しかし、ウェストファリア条約が確立された直後にヨーロッパはオスマントルコ帝国に侵略されるわけでありまして、大変な大危機であった。ウィーンのところで、持久戦になり、引上げる結果になった。その後しばしの平和が続くわけでありますが、その間フランスが大国になっていった。やがてフランス革命が起こり、ナポレオンが登場する。ナポレオンを他の国々が必死に共同してモスクワ等に負け、他の国と同じくらいになった。ここでバランス・オブ・パワーというものが出てくる。1つの国が強くなろうとすると他の国がよってたかって押さえる。現在で言えば国連の集団的安全保障、国連の範囲内で1つの国を抑える体制が出てきた。興味ある諸君はこの辺の歴史の流れを勉強すると面白い。まるで三国志の様な世界。
その後、19世紀の終わりにじっと我慢していたプロシアがドイツを統一し、一気に一挙に覇権国家になっていき、これにイギリス・フランスは慌てる。バラバラだったから何とか押さえられていたドイツが、先頭国家になる。産業基盤も確立し、鉄鋼・機会、さらには年金もビスマルクの時代に確立する。これはまずいということで、ロシア・フランス・イタリア、そしてアメリカという国々が参戦して戦ったのが第一次世界大戦。ドイツは負け、オスマントルコ帝国は崩壊する。ロシアには共産主義国家が出来るということになってくる。ドイツもワイマール時代はのんびりとしていて、キャバレーとワンダーフォーゲルというような時代でありますけれども、国民は熱狂的にナチス第三帝国樹立を支持し、議会で選ばれて、第二次世界大戦。世界史の中で、日本も当事者として三国同盟を通じて初めて参戦する。
戦後はスーパーパワーはソ連とアメリカ。これらは主義・主張・体制が全く違う。冷戦という時代。敗戦後GHQ米軍の占領下で、日本が共産主義陣営に入りますか、自由主義陣営に入りますかという事で、自由主義陣営に入る。冷戦、朝鮮戦争が起こり、51年にサンフランシスコ講和条約で独立する。しかし、日本は日米安保があるからあらゆる戦争に参加しないで済んだ。朝鮮戦争、インドシナ戦争、ベトナム戦争これは憲法の規定が源泉として機能した。しかし、冷戦の中でその時はよかったかもしれないけれども、今は国際貢献を何もせず、このままで良いのでしょうかという議論が今起こっている。憲法の議論、教育の議論。これも押し付け的に出来たもの。60年安保。70年安保。日本は経済至上主義の国家体制。日本にとっては非常に経済に集中できる、国民生活・経済もレベルアップできるという事でよかった。他方、この時に佐藤内閣・三木内閣は集団的自衛権の政府解釈を一層限定化して言った。そして武器輸出三原則によって色んな事ができなくなってしまった。そのため、私が経産大臣の時に日本にとって大事なマラッカ海峡で沢山海賊が出る。10万トン、20万トンというタンカーを盗んでしまう。サメもいっぱいいる。物や金を取るだけではない事件が続発した。日本が海上保安庁の中古船を送ったらどうかと提案したら、それは武器輸出三原則があるから駄目だと言われた。海上保安庁の船ですので、すったもんだの末、機関銃を積んでありますが、結局機関銃を外して送った。インドネシアはすぐに他の所から機関銃をもってきて設置した。つまり、杓子定規のようにこれをあてはめていいのか。佐藤内閣の非核三原則。
私もこれで色々言われましたが、90年代の終わりから、冷戦の崩壊、湾岸戦争、2001年のテロが出てくる。今までの戦争というものはウェストファリア条約に基づいた主権国家同士のルールがあった。これは国家間の問題であり、その上に国連があって、国家を中心としたルール作りであったが、いきなり個人とか、テログループとか国家でないものと国家の対決という形になってきた。今までは国家という意味では対等の関係であったが、アメリカであろうが居るのか居ないのか、アルカイダとかタリバンとか、日本で言えばオウム真理教、地下鉄サリン事件みたいなもんがあって、国家対アルカイダでは対等ではない。シンメトリーな関係からアシメトリー(非対称)な関係になってきた。これにどう対応していったらいいのかというのが、世界の国々、世界の政治家達の問題になってきている。
日本は転換期に来ていると思っている。これも世界の流れと密接不可分。一つは敗戦という瓦礫の中から日本は立ち上がり、先人達の努力で立ち上がることができた。当時は色んな大胆な経済運営もやってきて立ち上がった。朝鮮戦争は、朝鮮半島で悲惨な激しい戦闘が行われましたが、日本は一生懸命、産業物資等を生産して送り込んだ。朝鮮特需が生まれた。我々はサンフランシスコ講和条約によって主権国家になった。そして、今の中国の様な急成長の時代があって、世界第2位のGDP国家になっていった。この時は極めて健全だった。繊維製品、電化製品、自動車製品等モノづくりをして世界中に輸出できた。今の世界の貿易は、物よりも金融・先物、お金の取引が増えている。日本が発展をする中ではモノづくりを通じで、メイドインジャパン、最初は「安かろう、悪かろう」だったが、一生懸命頑張った。日本のブランドイメージが良くなってきている。それも、危機感をもって努力していかないと、中国・韓国・インド、あるいは東南アジアといった国が虎視眈々と我々を見て、世界を見ている。安心した途端に、我々が巡航速度になったとたんに、後は下り坂。下り坂で何が悪いかというと、先ほど申し上げた様に、食料や原材料を買うお金がなくなってしまう。そういう中で、冷戦崩壊、テロ、日本はたまたま同じ時期にバブルが崩壊して戦後初のデフレの次期に突入する。人が物を買っても物価がどんどん下がるという時代になっていった。株価も8000円を割るという状況になった。賢明の努力をしなくてはならなかった。その時、破壊的創造者である小泉純一郎という人が出てきた。ぶっ壊す、ぶっ壊すと。ぶっ壊さないと日本は立ち直れないと我々は思った。言葉の力が大きかった。ああやって黙っていると、か細いカッコイイおじさんが、一旦喋るとライオンみたいに髪を振り乱して絶叫する。それに、閉塞感を感じていた国民は共感した。やっと我々は区切り、過去の負債、負の遺産をある程度処理をして、エンジンを前進にかけて準備が出来てきたと思っておる。それが安倍内閣のスタート。例えて言えば、小泉さんが第一ロケット、そして安倍さんにバトンタッチされた。そんな時代認識の中で、日本は惰性の中に居ては駄目だと。
日本は世界第2位の純石油輸入国。石油は99.8%は輸入、その7割が中東地域。中東地域から日本に石油天然ガスを運ぶのがいかに大変か。様々なテクニック、情報を駆使しないと日本に来ることが出来ない。それを皆さんに認識して頂きたい。産油国、日本にとってはサウジ、アラブ、カタール、イランといった国々が日本に石油を輸出している。いずれも非常に危険な海域。海賊もいる。そして、アラビア海は幅が狭くて浅い。悪い輩がいたずらをしようと思えばいくらでもできる。そういう危険を潜り抜けると、今度はパキスタン。パキスタンのいくつかの港には中国の使ってる港がありまして、中国の監視がある。そこをぐるっとまわって、インドを通って、東南アジアに入り日本に入ってくる。マラッカ海峡の手前に、アンダマン・ニコバル諸島というのが点々とある。その北には中国のレーダーサイトがある。貨物船等々を監視している。そこを監視されながらマラッカ海峡に入る。その70%のほとんどがマラッカ海峡を通る。その他、アフリカから入ってくる鉱物資源、重要なレアメタルもこの海峡を通ってくる。マラッカ海峡には何百隻もの船が通る。積荷を頂く格好の場所。そこを通り抜けた後、台湾南のバシー海峡を通る。台湾がどうなっていくのか、民主主義の価値が共有できるのか。台湾とフィリピンの間のバシー海峡が厳しくなる可能性も有る。そういったように、日本の資源確保は非常に大きな問題がある。日本は、石油はだいたい中東。天然ガスはだいたいオーストラリアかインドネシア、マレーシアと固まった地域に偏在している天然ガスはロシアにもあるし、石油は南米にも有る。そういった地理的な供給の分散が必要になる。しかし、なかなかできない。ウランなんてのはカナダとオーストラリアから70%が入ってきている。そして産業のコメと言われているレアメタル。これは重要かつ産地が限られている。例えば、液晶テレビの電極にきわめて重要な役割を果たすインジウムというレアメタルがありますが、これは55%が中国が算出する能力を持っている。また、レアアースの世界の93%は中国にしかないという現実でございます。あるいは、白金、これは80%が南アフリカで取れる。また、タングステンは中国に頼っている。中国に日本の高性能な製品を造る上で必要なレアメタル・レアアースは多く中国に握られているといのは不安定、危険であります。中国は人口と経済力のみならず、鉄鋼もおさえてしまうことになる。皆様方はお分かりだと思いますが、エネルギーや資源は国家総動員で世界の競争をしている。ロシアにおいては、ユーコスという会社は国に召し上げられて、プーチンが悠々とコントロールしている。去年のロンドンの暗殺劇とか、ロシアの貴重な天然ガス、石油等々を国家ぐるみでやっていく。中国は共産主義独裁の国家。国営企業として3社の石油会社が有る。3社が世界のトップ10にはいっている。ところが、日本には30番目くらいの石油会社しかない。1位のエクソンモービルが生産量が1日420万バレル。中国の3社、フランスの会社が200~300万バレル。日本は新日本石油なんかは20万、30万バレル。これは世界の石油争いでずっと続いている。国が先頭に出る必要はないかもしれませんが、世界中、エネルギーの競争をしているときは、国と民間が協力しないと弾き飛ばされてしまう時代に来ている。それを今後どうしていけばいいのか。また、民間企業が石油会社エネルギー会社に無い会社が資源の獲得に入っている。インドの会社が新日鉄の5倍の生産力を持つ会社を持った。彼らはポーランドとかインドネシアとかの小さな鉄鋼会社を買う。生産量は少量です。しかし、そこが持ってる山を狙っている。日本でしたら三菱何とか銀行とか、みずほなんとか銀行が資源を売り買いするなんてことはやっていない。世界はやっている。
日本は水くらいは豊かだと思っている。しかし、今後水も少なくなり、元々少ない国でもある。確かに、世界の平均降水量は880ミリ、日本は1700~1800ミリ降る。国土が0.3%で2%の人口、10倍くらい人口密度が高い。1人あたりの水保有量は世界の三分の一くらいしかない。しかも、急傾斜である。山に降った雨や雪が、川に、海に流れていく。セーヌ川やミシシッピー川の川べりに立った時に、どっちに流れているかわからない。これが世界の大河。信濃川を見れば、こっちが川上でこっちが川下だとすぐに分かる。水を貯めにくい構造になっている。そして、日本の水は農業用水、工業用水、生活用水とあって、三分の二がだいたい農業用水ですが、日本は世界一の食糧準輸入国。仮想水、バーチャルウォーターという研究がありますが、日本が輸入している農産物を作るのにどれくらいの水が使われるのかを計算した研究がある。1キロの穀物を作るのに約2トンの水が必要だということであります。穀物を食べて、鶏や豚が育つ。鶏肉1キロを作るのに2キロの穀物が必要。すると4トンの水が必要。牛肉1キロだと24トンの水が必要。これを足し上げていくと、600~1000億トンの水を世界から奪っているという計算になる。日本は農業用水で使っている水が600億トン弱。日本で自給すれば良いという議論がありますが、土地の面積が無い。仮に土地があったとしても、育てるための水が無い。
日本で100%の自給なんて言ってる政党がありますが、そんなのは実現不可能であると。自給は無理ですと、それを補うために備蓄をしていく。そして、消費者の皆さんが喜んでくれるような生産物を作ろうという事を国も生産者も自治体も一体となってやっている。最後に、今後そういうなかで我々はどうしていったら良いのかということでありますけれども、まずは技術が大事になっていく。
安倍総理は、イノベーション25という方針をまとめた。イノベーションというのは、単なる技術革新ではなくて、新しい技術が暮らしを変えていく。たとえば自動車。これもガソリンで動いて、大衆車になって、生活が変わった。コンピューターもそう。今後日本が生きていくために、我々の唯一の武器、技術力人間力、これをどうするのか。これだけの潜在的な能力のある皆さんが居る限り、自治体も企業も後押しをして、皆さん方の武器を多いに強化して頂きたい。それは省エネ技術、エネルギー効率を上げる技術、バイオを使った予防医学。色々あると思っている。日本が世界中に輸出できる技術としては諸エネ技術、環境対策技術、水の淡水化技術、鉄道技術。こういったものをやっていく。日本の知的財産は権利として守らなくてはならない。他の国が似たものを作って知的財産権が侵害されている。新しいものを造ろうとするインセンティブが落ちてくる。技術力が落ちてくる。これはきちっと守らなくてはならない。中国なんかにはそんなの関係ないなんて国があるが、それは守らなくてはならない。
中国は問題が一杯多い。省エネ、公害、格差、過剰流動性の問題。さらに軍備増強の問題もある。いつまで発展が続くのか、いつおかしくなるのか、おかしくなるとすればどうなるんだ。軍事的な圧力が強まった時に我々はどうするんだ。自分だけで戦うのか、アメリカを中心に戦うのか。価値観が共有できる国々と連携するのか。我々は時間軸、空間軸、あるいは価値観軸をしっかりたてて、企業活動であろうが皆さんの勉強であろうが、あるいは日本の安全食糧エネルギーを考えるという事を、東大の諸君には感心を持ち、取組んで頂きたい。
さて、オシム監督。あの人の言葉は面白いんですけれども、日本は危機感、島国で暮らしているか日本は国際河川が無いから水紛争が無い。日本は聞き感覚が無い。サッカーに置いても機器に対する嗅覚が無い。ミスを犯しながらプレーしなくてはならない。我々は、常に危機を意識してそれに対応する。ぜひ、皆さんの知的刺激の中で時間軸・空間軸・価値観軸の中で、自由に発想して頂いて、日本の平和と安全。世界の平和と安全、貧困からの脱却に日本は何ができるのかを考えて頂きたい。惰性の時代はお終い。惰性は衰退。
東大全共闘と三島さんは、戦後の20年続いた知識的進歩では日本は駄目になるということで合意している。安倍総理の言う戦後レジームからの脱却というのはまさにそういうこと。いつも同じ様なTVを見て、同じ新聞を見て、どんな事件があったか3日たったら忘れているというのではだめ。東大の皆さんにあえて言うなら、朝日・岩波的な発想のまま平和で何も起こらず繁栄し、発展が続くという事は絶対にありえないと言う事をご理解頂きたい。あるいはまた、別の新聞を読むだけで日本は大丈夫だということではない。ぜひ、三次元的に情報をとって頂きたい。そして、勉強、発想に生かして頂きたいということを申し上げて、後輩の皆様にお話させて頂きました。