最近読んだ本(9月1日)『中世ヨーロッパを生きる』 甚野尚志 ・堀越宏一編 東京大学出版会


■『中世ヨーロッパを生きる』 甚野尚志 ・堀越宏一編 東京大学出版会 
中世ヨーロッパ(5世紀~16世紀)と言えば前の西ローマ帝国や後のルネッサンスの狭間の、暗く、情報も少なく、最近亡くなられた阿部謹也、木村尚三郎両先生を除けば余り面白い本もないという印象だった。
新聞の紹介で読んだ本書はその世界を14人の専門家がわかり易く解説している。
目次に添って示すと、
神秘の森林)木材、動物、蜂蜜、どんぐりを餌とする豚の放牧、木炭による製鉄。領主の所有権、王の狩猟権、住民の入会権の混在。
水車)小麦の製粉動力、住民の河川利用税。
災害)神の罰としての天災(洪水、雷等)、飢饉、ペスト等病気。
ファッション)黒色の流行。
食事)手づかみからフォーク、ローマ時代のスプーンの復活、大皿から個々への盛り分け(いずれもイタリアからヨーロッパ中へ)
暖炉)家の中心。戸別税の単位。
母子関係、女性の地位、老後(仕事ができなくなった時)、遺言、相続、死後の世界。
社会集団)ムラ、教会、ギルド、兄弟団、ホスピタル(イスラム世界では医療施設だがここでは困っている人一般の為の場所が原点)
音楽)印刷(譜面)がなかった時代の宮廷歌人と在野の職人歌人。
巡礼)地の果ての聖地、サンチアゴ・デ・コンボステラ巡礼と観光等々。
一般に貧困と死、イスラムの脅威におびえながら、キリスト教にすがる中世だが、本書によれば現代との共通点や原点が多々あることがよくわかる。