最近読んだ本(4月2日)『デービッド・ロックフェラー回顧録』 デービッド・ロックフェラー 新潮社


 ロックフェラー家と言えば、言うまでもなく、100年以上パクス・アメリカーナの発展と共に石油産業を中心に繁栄してきたファミリー。黒い廃棄物だった石油で世界を変えた一族。  本年93歳になる著者の広範囲かつ、深い回顧だから650ページにもなるが、非常に面白かった。
 著者の祖父、ジョン・D・Rについては「追いはぎ貴族でも偉大な慈善家でもなく、脱毛症に悩む普通のおじいさん。」父は偉大な創業者の下にありがちな、「うつ病で内向的文化的」。自分も6人兄弟の末っ子で「まじめに勉強した失読症に悩む普通のアメリカ人。」そうは言ってもそこはロックフェラー一族。生活も仕事も慈善も交友範囲もケタはずれ。


 主に大恐慌以降の現代史そのものと言っても過言ではなく、300人以上の世界の政治家、経済人、文化人、芸術家等が出会った人として登場する。日本人にも数人いる。会った人は必ずメモに残しているという。自由主義国家だけでなく、世界中の途上国からフルシチョフ、周恩来、アラファト、ゲバラ等まで・・・。家族、親族との葛藤、仕事上の争い、政治や国際紛争に巻き込まれる悩みも淡々と書かれている。オイルと金融がビジネスの中心だけに、70年代以降の中東についてが特に興味深い。イスラエルとアラブ、そしてオイルマネーを「サウジは米国債、クエートは欧米株、イラン‐パーレビ時代はインフラ、教育整備や国防費に使った」という。


 大恐慌時代にも関わらず、ロックフェラーセンターやニューヨーク近代美術館を作った先代に続き、ニューヨーク再開発に生涯、力を注ぎ、70年代に世界貿易センタービルを作った。日本のバブル時代に三菱がロックフェラーセンタービルを買収し、再び取り戻した時の感慨が深い。
「9・11テロで、世界貿易センタービルは消滅したが、又再生するとき私は立ち会う」と結んでいる。


 著者の人生、つまり金融、オイルビジネス、バブル、最先端金融商品、テロ、慈善は今また繰り返されている。恐慌は・・・?