著者は第62代横綱大乃国。現在、芝田山部屋親方、解説者、講演講師、そして「スウィーツの親方」。私と郷里が同じで、大関昇任時から「何もできない」後援会長をしている。
大乃国は現役時代、体が大きくて、強い時は滅法強いがとりこぼしも多く、特に張り手をやられたらおしまい。気がやさしく、あだ名は「パンダ」
「平幕時代、1場所3横綱から金星をあげた」とか、「絶頂期の千代の富士の54連勝を止めた」とかすごい記録も持つ一方、ケガに悩まされ、睡眠時無呼吸症になり、屈辱の横綱4場所連続休場もあった。
九州場所で初日から1勝2敗となり、「今日負けたら引退か」と言われ、私は居ても立ってもいられず、福岡まで飛んで行って昼寝中の横綱をたたき起し、子供の写真を見せ合いながら、「お互い大変だよね」とか雑談して帰った。その後見事に立ち直り、何と優勝してしまった。なんていうこともあった。
大相撲は伝統に基づく極めて厳しい世界だ。四股やすり足、股割等それぞれ意味がある。年に一度は芝田山部屋でおいしい「ちゃんこ」をご馳走になるが、土俵で「まねごと」を教えてもらっても、この歳ではとてもできない。若い力士は無理矢理やらされる。唯、蹲踞(そんきょ)は股関節を柔らかくすると親方から聞き、朝シャワーを浴びる時蹲踞をしている。「墓石の様に」と言うが、鏡で見ると尻を前に突き出すのがコツの様だ。目をつむれば、グラグラする。なんとかモノにしたいと努力している。
ケイコはウソをつかない。上にあがった時のおごり。扱き(しごき)に苦労を重ね、負ける苦しみを知りながら、ついに横綱になったら「神の存在」となるので、もう下界に戻ることはできない。つまり、引退しかない。断髪式の時は、緊張や涙ではなく、「招いた人の弁当の数は足りているかばかり心配だった」というのもこの人らしい。
バブル崩壊後の部屋立ち上げの苦労。親方は弟子にものすごく厳しい。私の前でもボロクソに言う。何人も弟子が逃げて行ったとこともなげに言う。講演や子供たちへの課外授業もかなり辛口の様だ。決して「パンダ」でも「スウィーツ」でもない。
日本人は人の迷惑を顧みない。法を守らない。だから教育が必要だ。親も子も。大きな声であいさつしろ。辛抱して努力すれば結果は出る。生活は一度上げたら下げられない。部屋では新潟の田んぼで米作りをして、皆で食べている。
我々に、この人を古いとか無茶だと批判する資格はない。苦労して、努力してグランド・チャンピョン(横綱)になったのだから。むしろ、私には大変勉強になる。
最近の大相撲はつまらない。華がない。きりりとしたものがない。土俵でふてくされたり、仮病を使ったり、勝負が決まった後、平手打ちをしたり、興奮とか悔しさより腹が立つ。協会も悪い。理事長も悪い。親方も悪い。このままでは大相撲は衰退の一途だろう。
本書は一般人だけではなく、力士も読むべきだ。
剣道がオリンピック種目になるという噂がある。「大相撲も」という噂もある。反対だ。体重別になったり、時間制限になったり、仕切り前の所作が改変されたり、日本の神事が冒涜されるのは目に見えているからだ。日本で礼と強さを持った外国人力士が活躍するのは当然だが。
他に、外国出張中、機内で読んで面白かったものは、
●「メタル・ウォーズ(資源危機)」谷口正次 東洋経済新報社
●「チャーチルが愛した日本」 関栄次 PHP新書
―チャーチルの母親が世界旅行で訪日し、感動したことが彼の政治の原点となった。
日英同盟破棄を後悔し、日本の行動を嘆き、戦後日本復興に努力したという。
●「ヴィクトリア女王」 君塚直隆 中公新書