早大政友会での講演録(6月18日)


<第1部>
 アメリカのある心理学者の研究によりますと、人の講演をこうやって30分以上聞いたときにですね、後になって残っている印象というのは最初に出てきて一言をしゃべるまでの間の数秒あるいは1,2分の印象が約半分だそうでございます。それから、しゃべっている間に30分も経ちますとだいたい飽きてきますから、ぼーっとしてきてですね、あそこでつっかえたとか、また突然身振り手振りをやったとかですね、あるいは失言をしたとか、そういうことが後になって記憶に残っていると、これがだいたい30%だそうであります。
 話の中身、つまり私が話したいことを、賛成・反対は別にして、記憶として残っている方は20%にも過ぎないというのが研究結果に出ておりますけれども、今回は、一体中川というのはどういうやつかなと、日頃テレビで発言したり新聞で発言したりしているのを見てると、とんでもないやつかも知れないと思ったり、いろんな意味で来てくださったみなさまでございますので、私もですね、日頃思っていることを10代、20代の若い皆さまに、未来に向かっての皆様方に私からお訴えをして、また後でご意見をいただきたいと思います。
確かに今の政治、特に国政に対して国民は非常に不満と不安、そして無関心の人も非常に多いのだろうと思います。例えばよく新聞・テレビで自民党の支持率何%、民主党の支持率何%と出ますけれども、あれを足しても50%にならない、つまり他の政党を支持する人もいらっしゃいますけれども、次の政権政党がどちらになっても、半分以上の人がどっちでも良いやと思っているというのがこの調査結果から読み取れるわけであります。そういう意味で、個々の問題については後で質問が来ると思いますから、個々の現在の政策課題につきましてはいちいち触れませんけれども、しかし私は逆に、このいわゆるマス・メディア、新聞・テレビなどのマス・メディアの世界と、ここ1,2年、ずいぶん、ある意味では別の意味で、国民の皆さん、とりわけ若い人たちが政治に対して関心、あるいは不満をお持ちになっている度合いが高くなっているというふうに感じております。それはまさにインターネットを通じた直接的な国民同士のやりとり、あるいは私の所に直接来るメール等々でございます。現在、私が取り組んでいる物事のいくつかについて、何かこういう事が起こったとか、あるいは中川がこういう発言をしたとかこういう行動をしたと言うことになりますとすぐに、20通、30通のメールが全国、世界から、しかもたぶん若い人が圧倒的に多いのだろうと思います。
 そういう意味で、今までとは違う意味で特に今日お集まりいただいている皆様方を核としてですね、政治に対する怒りと同時にこのままでは日本がおかしくなってしまうという危機感、あるいはその時自分がどうしたらいいのだろうかということも含めて、政治に対する関心が別の意味で私は非常に高まっているというふうに思います。歴史的に見ましても日本でもいわゆる60年安保、70年安保というものが、ある意味では社会的に大きな動きになりました。あるいはまた、これは真の意味の学生の自治かどうか分かりませんけれども、60年代のお隣の中国では紅衛兵という非常に若い人たちが、一つの中華人民共和国の政治の流れに一時期なったわけです。あれに対する反省は今中国の国内でもあるわけでありますけれども、そういう経験を中国でもいたしました。あるいはまた1960年代半ばのド・ゴール大統領の末期の時に学生達が大反乱を起こしまして、いわゆるカルチェルタンというパリのど真ん中を、学生達が一時期占拠をして当時の政府に対してかなり激しい抵抗をした、あれがド・ゴール退陣につながっていったわけでございます。最近では2003年のこの前の韓国の大統領、今回新しくイ・ミョンバクさんという方が大統領になられましたけれども、その前のノムヒョンさんという大統領が、まぁ我々プロから見ますと土壇場で逆転して大統領になったなぁとかなり衝撃的だったのでありますけれども、あのノムヒョン大統領を生んだのは386世代と言われております若い世代のネットの世代が一斉に立ち上がって盧武鉉さんを支持をした。まぁその後の盧武鉉大統領のやった事というのは我々外から見てもまた国内的にもかなり支持を失ったわけではありますけれども、とにかく民主国家に於いて、たぶん若い世代ネット世代が自分たちの政治的指導者を作ったという意味ではこれは歴史上初めての事だったのではないかと思います。
そして現在アメリカでは大統領選挙が行われております。共和党の方はマケインさんという方が候補者として決まっておりますけれども、民主党はつい最近までご承知の通りバラク・オバマという人とヒラリー・クリントンという人が最後の最後まで戦い続けて、そしてオバマさんが候補者になったわけでありますけれども、オバマさんの原動力というのはやはり若いネット世代であります。特にヒラリー・クリントンさんは大統領夫人としても大活躍でありましたし、ニューヨーク州選出の上院議員としても活躍をされておりましたから文字通り人脈も金脈も知名度も遙かに上だったわけでありますけれども、バラク・オバマさんはネットを通じて1ドル献金というのを全国の国民にお願いをして、片方は10万ドル、20万ドル単位のお金集めをしたのでありますけれども、この1ドル単位のお金の方が実は10万ドル単位のお金よりも結果的に多く集まった。これは1ドル払う人も1票、10万ドル払う人も1票でありますから、数からいったらどちらが多いのかと、金額的に1ドル献金の方が多かったということは、結局お金を出して支持している人の数というのははるかにオバマさんの方が多かったのだと思います。ただし、あの予備選の得票数だけを見るとクリントンさんの方が多かったようでありますけれども、しかしそのネットを通じた1ドル献金という形でいうとオバマさんの方が非常に強かったということであります。
 そして日本に置きましてもまさに、先程私が申し上げましたように新聞ニュースでは報道されないけれどもネットで知ったけれどもこんなことはけしからんとかですね、あるいはあの時おまえはこんな事を言っているけれどもそれはけしからんとかあるいは支持するということは新聞に出ていないような、あるいは新聞が報道しない、ニュースとして重要性があるかどうか分からないけれどもひょっとしたら意図的に報道していないのかも知れませんけれども、報道されていない、知らされていないことについて私の所に毎日多くのご意見をいただいているわけであります。まぁそういう意味で、今我々非常に厳しいご批判をいただいておりますけれども、それを謙虚に受け止めながら、私は新聞・テレビを通じての声も国民の声でありますけれども、それよりもネットを見ている人のうちの少なくとも何%の人が私の所にメールを送ってくれる、その人の声というのは私は真に重たいと思って日々活動しているわけであります。
 早稲田と言いますと大隈重信候の創設と言うことで、まさに日本の明治以来の指導者であります大隈首相、そしてまた早稲田出身の首相と言えば戦後復興期順調に復興してきた日本が初めてリセッション、経済不景気、低迷を迎えたときの首相が石橋湛山さんでありました。大変なご苦労をされたある意味戦後最初の首相であったわけであります。今から10年前は小渕恵三首相でございました。このときはバブルが崩壊して約10年、もがいてもがいてもがいて最後に、バブル崩壊のツケを精算したのが小渕さんでありました。しかし過労がたたってああいう形になられたわけでございます。そして現在の福田康夫首相も皆さんの先輩であります。この方もある意味では小泉改革が言い意味でも悪い意味でもぶわぁーとやったのをですね、後始末をやらなければならない。また、日本経済が低迷、あるいはもっと悪くなるかも知れない、そして後でお話ししますけれども世界同時不況、あるいはひょっとしたら世界恐慌が来るかも知れないという瀬戸際の中での舵取りであり、大変おしかりをいただいておりますけれども年金の問題、福祉の問題などにつきましても、これは少なくとも改革をしなくては崩壊してしまうと言うぎりぎりの状況におきまして現在懸命に努力をされている。何かさすが早稲田精神と言いましょうか、天はその時にふさわしい人を配材すると良く言いますけれども、厳しいときにそれに巡り会って、本当に苦しみながら首相としての大任を果たしていらっしゃる。早稲田出身の皆さん方の先輩方が歴史のおりおりで頑張っている。これが政界においても大変な力になっているわけであります。
 小渕内閣の時に私は初めて44歳で農林水産大臣として閣内に居りましたので、その時の小渕内閣の閣僚の一人として身近でいろんな仕事をさせていただきましたけれども、本当に経済的にも苦しかった。私は農林水産大臣として、戦後初の日韓漁業協定の改定という大仕事もやりましたし、新しい農業の基本法というのも作りましたけれども、小渕さんからはポイントだけ指示されて後はおまえの好きなようにやれということで思う存分仕事をさせていただきました。
 さて、皆様方は自分にご関心が当然あります。国に対してもあるということが今、事前のご案内で改めて知りました。世界に対してもあるでありましょう。そして将来に対してもあるでありましょう。そして過去に対してもあると思います。したがいまして皆様方は文字通り一生懸命毎日早稲田の大学生として勉強されておられるわけでありますけれども、現在の今の状況のポイントについてですね、ちょっとまず簡単にご説明をさせていただきたいと思いますので、今日私は急遽資料を作って、皆様方のお手元にお届けをしたところでございます。
 1ページ目に世界の実質GDP成長率というのがございます。この黒線が、世界であります。世界はですね、だいたい21世紀にはいってから3%から5%の成長をしているわけでございます。安定的に成長しております。この牽引者は言うまでもなくBRICs、とりわけ中国、インド、それからアフリカの国々も結構、3%、5%くらいの成長をしておりまして、ある意味ではアメリカも景気がよかった、ヨーロッパも引き続き現在でも堅調である、ということで世界全体が非常によかったわけであります。まぁ、飛び抜けているのがこの一番上の中国ということでありまして、日本の方は一番下の赤い線と、こういうことに、失礼、一番下から上の青い太い線ということであります。で、去年の8月以降、急速にみんな下がって参りました。これはなにが原因かというとサブプライムローン問題であります。あとで少しお話をさせていただきます。
 
次のページでありますけれども、インフレという問題があります。インフレ、物価上昇、これは困ったことだということでありますけれども、しかし、このインフレというのも、ほどほどだったらば、まぁ仕方がないなということでございます。問題はデフレであります。デフレというものはですね、実は日本は戦後経験したことがない。そして経済的に言えば、悪性デフレを解消するのは戦争しかなかった。歴史的には、もう悪性デフレをやめるために、わざわざ指導者は戦争までしたということが歴史的にあります。もちろん今世界で、あるいは日本で、デフレ解消のためにどっかひとつ、戦争でもして製造業を伸ばすかとか、雇用を増やすかとかそんなバカなことを考える人は誰もいないわけですから、これは普通の政策のなかからやっていかざるを得ませんけど、あらゆる政策を投入して、その結果が一番下にあります赤のこの線、0を中心に行ったり来たりということであります。これは、いわゆるコア物価と言って、食糧・エネルギーの物価を除きますと、少し上がるわけでありますけれども、それでも、総合的に見て、日本もずっと去年の9月くらいまでほとんど0以下であったわけであります。これがいわゆるデフレという状態にほぼ同義語だと思っております。ところが、去年の8月以降、急に上がって参りました。これはさっき言ったようにサブプライムローン問題の影響であります。で、サブプライムローン問題の影響とはどういうことかと言うと、後でデータが出てきますけれども、つまりサブプライムにいっていた、余っていたお金がいよいよサブプライムというわけのわからない証券じゃこれは大変なことになるぞということで、お金をいっせいに引き上げてそして石油とかコモディティ、あるいは農産物の投機に走ったから、だから石油や食料品の値段が必要以上にまたぐんっと上がった結果がこの8月以降の上昇を意味しているわけであります。
 で、今はアメリカが非常に心配であります。6月末の中間決算、次々と証券会社のアメリカの決算が出ておりまして依然としてよくない。そして6月末にはアメリカの金融機関、銀行のですね、決算が一斉に決まりまして7月の初め、ちょうどサミットの頃に、アメリカの銀行の6月中間決算が発表されます。あまりいい数字が出るはずがないと私は思っておりますが、アジアの実質GDP、世界を引っ張ってきたBRICsをはじめ、その中心は中国、インド、そしてまた、よくネクスト11とか言いますけれども、ベトナムとかインドネシアとか、こういったASEANの国々も非常によかったわけではありますけれども、まぁこの黒い、圧倒的に下にいるのが残念ながらわが日本であるわけでありますが、ところが、ここにきてですね、下がっている国が顕著なのが、ブルーの線のベトナム、それからちょっと下の緑の線のフィリピン、これが非常に今経済が非常に悪くなっております。
 次のページをご覧いただきたいと思います。これはインフレ率の表でありますけれども、ベトナムが、飛び抜けて実はインフレが高いんです。なぜ高いのかと、ベトナムは経済発展をしている、あるいは、資源、石油も出る。食糧、米なんかはタイに続いて世界第二位の輸出国でありますけれども、どうしてそれにもかかわらず、こんなに物価が上昇しているのか、言うまでもなく、これは輸入が多い、あるいはまた、人口の増加に比して、あるいは経済の成長に比して物が足りないから物価が上がっていく。これで、ベトナムだけが極端に上がっております。
 次のページにですね、アジア諸国の、実質金利、つまり政策金利、一般的な政策金利、例えば日本で言うと今は公定歩合0.5%、アメリカ2%、EU4%ですけれども、こういった政策金利からインフレ率を引いた数字でありますが、ベトナムは、この結果が、マイナス11%を超えている。政策金利が14%なのに、それからインフレ率を引くと、マイナス11%という極端に悪い数字であります。何でベトナムだけが、という理由がいま一つ昨日いろんなエコノミスト専門家に聞いたのですが、今言った理由だけではこれだけベトナムだけが極端に下がるという理由がいま一つわかりません。
 
次のページ、ご覧ください。それを総合的に表しているのが、株価であります。当然のことながら、一番ぐんっと下に下がっているのがベトナムであります。基準値に対して60%株価が下がっております。つまり、全体として下がっております、これはまぁさっき言ったようにサブプライムローン問題に端を発するアメリカ発の金融の問題、それと連動してのコモディティ、あるいは食料品、原油等の価格の上昇と、ということでございます。
 アメリカ、そしてまたアメリカと密接な関係のあるヨーロッパ、日本、これがある程度連動するのは今までと同じでありますけれども、なんと、お聞きになったことがあるでしょうか、デカップリング論というのがあって、今回の金融不況というのは、アメリカだけの問題であって他のところは関係ないんだ、つまり切り離されているんだ、デカップルだ、という議論がありましたけれども、決してデカップルではない、やっぱり石油は世界中を回るし、農産物も世界中を回りますし、ましてお金は一瞬のうちに世界を駆け巡るわけでありますから、デカップルなんていうことは、今の時代にありえないわけですが、まさに今、この瞬間、一番先に万が一何かが起こるとすれば、東南アジアの、そしてベトナムである。これは十年前のアジア通貨危機の再来になるかもしれないという危惧を我々は徐々に持ち始めております。
 
次のべージが、石油の値段、100年間に渡って、140年間に渡っての数字であります。石油がはじめて19世紀の終わりに、あの、ご存じロックフェラーによって、まぁ実用化された後の石油の値段でありますけれども、とっくにもう今は140ドル近くになってしまってこの線から飛び出しているわけであります。石油が上がっている値段、ちょうど私は3年前経済産業大臣をやっている時に30ドルくらいから徐々に値上がり始めました。上がった原因は、これは、一つはインド、中国の経済発展の実需である、あるいは産油国、とりわけ中東、アフリカ等が、いわゆる地政学的リスクで生産も、輸送も不安定だということもあります。そして、アメリカの製油所の体制が老朽化しているというような問題もございますけれども、投機がいまや一番大きな原因になってきているわけであります。その証拠に、一番手前の97年のアジア通貨危機の時に、ポンっと下がってそしてまたぐーんとここ2,3年で上がってきているということでございます。私がちょっと手書きで書いた表で1930年代、大恐慌で1バレル、1バレルというのは3.8リットルくらいでありますけれども、3.8リットル、10セントに暴落した。だいたい4分の1になったわけでございますけれども、こういったことを経験しながらそれにしてもちょっと異常だよねと、いくら経済が発展して石油の需要が増えても、この上がり方は異常だよねというのが、当然の認識であります。例えば140ドルのうち実需どのくらいか、これはよくわかりませんけれどもだいたいいろんな人に聞くと60ドル、高くても80ドル、この前のG 7でアメリカは80ドルと言いました。ですから、やっぱり倍ぐらいは、投機のお金がある、つまり世界中でお金が余っているんです。銀行から借りて投機や投資に回す人もおりますけれども、実は今、世界にお金がとっても余っている状態であります。
 次のページにはこの食料品と原油が与える影響ということで、悪化するところが一番ひどいのが真っ赤っか、次がピンク、日本も含めてピンクであります。そして、比較的いいのが薄いブルーで、かなりもう問題ないのが濃いブルーということでありますけれども、これを見ますと、資源大国農業大国のアメリカもフランスも、実はこれピンク状態なんですね。中国、インドはもとよりであります。こういった食料品、原油の値段というものが高くなればなるほど儲かるのが、売る側と投機で儲けた人であります。みなさん、大貧民ゲームってご存知ですか、トランプの。僕は学生の頃よくやっていたんですけども、トランプなんですけども、大富豪がいて富豪がいて、一番下に大貧民がいて、その一つ上に貧民がいて、その残りは全部平民というちょっとこの時代になんか似ている。あまり使っていい言葉かどうかわかりませんが。トランプの大貧民ゲームというのがあって、大貧民になったひとは大富豪に常に一番いいカードを渡さなければいけないというゲームなんです。で、貧民は富豪に自分の一番いいカードを渡さなければならない。だから大富豪はだいたいいつも大富豪なんですけども、ときどきアクシデントが起こるんです。向こうの大富豪の判断ミスみたいなことがあって、それである日順番が突然、私も昔経験がありますけれども、大富豪だったのが大貧民になっちゃったり、大貧民が大富豪になったりするトランプゲーム、今もなんかときどき結構流行っているようですが、今世界は大貧民ゲーム状態なんですね。つまり大富豪である中東、あるいはまたロシア、資源はあまりないけれども、お金持という意味で言えば中国、といったところがますます儲かって、まぁ日本はさすがに大貧民ではありません。せいぜい平民か貧民ぐらいかもしれませんけれども、大貧民というのはアフリカの国々、あるいは中東を除いたインドを除いたアジアの国々が先ほどのデータのように、まっ先にそして一番強く影響を受けている。まぁトランプにたとえるならば、大貧民という状態、しかもこの状態はしばらく続いていくのだろうと思います。要はですね、歴史は繰り返すということを言っても過言でないのだろうと思います。今から二百年前、イギリスが工業国家として文字通り、ナポレオンがその頃は暴れていたというかヨーロッパの名手であったわけでありますけれども、イギリスはじーっと我慢をしてですね、地道に工業化政策に入って参りました。その時に、イギリスは国土狭いんだし、植民地もこれからどんどん増えていくから農産物なんていう効率性の悪い収益性の悪いものはどんどんもう外国から安く買ったらいいじゃないかと言ったのが、リカードというイギリスの経済学者であります。他方、同じくイギリスの経済学者のマルサスという人は、人口論から入っていって、いやいやその経済はですね10%20%の成長をすることはあっても、人口というのは幾何級数的に増えていくのだから、しかも今的に言えば豊かになれば中国のように穀物ばかり食べていた人々が鶏肉を食べ、豚肉を食べ、牛肉を食べるようになれば、穀物もどんどん足りなくなっていって、それでは国が成り立たないと言って大論争になったんですけれども、結局イギリスは経済の発展とともに移民も含めて人口が増えて、食料が足りなくなってしまった。で、アイルランドに一生懸命じゃがいもを作らせたんですけども、あるときアイルランドでじゃがいも大飢饉というのがでて、アイルランドの国民の三分の一が飢餓で亡くなったり、あるいは本当に命からがらアメリカに行って、アメリカ合衆国の建国のコアになっていったわけであります。つまり食料と工業、あるいは最近で言えば金融とITというのは常にトレードオフ、対立関係のようにしてはいけないんだけれどもなってしまっているということを、我々は何回も繰り返しているわけであります。サブプライムローンもそうであります。ぜひ一度みなさん研究してみてください。このサブプライムローン問題とアメリカの一番つらい思い出である大恐慌とではきわめて状況がよく似ております。もっと言えば今から二十数年前のブラックマンデーという、アメリカの株価が三分の一にある日突然、一日か二日で暴落したという、ブラックマンデーというのがレーガン時代にありましたけれども、その時と非常によく似ているんです。つまり、物価は上がっている、しかしその物価というのはいわゆるディマンドプル、需要が多くて値段が吊り上っているんじゃなくて、需要はあまりないんだけれども原料とか食糧とかエネルギーの方がどんどんさっき言った要因で上がっているから、もう必要最小限しかいらないんだけれども、それでも値段がぼんっと上がっちゃってるよね、コストアップ、これがインフレの今回の原因であり、経済がどんどん悪くなっているにもかかわらず、価格が上がっていき、インフレがより強くなっていくということであります。これはちょうど今から21年前の1987年のブラックマンデーでありました。その時はですね、実はドイツも日本もイギリスもアメリカも同時に利上げをしたんです。ドイツは非常に堅調だった。しかし、それでも上げた。アメリカはあまり堅調じゃない、ふらふら状態だったんですけれども、やっぱりコストアップインフレの恐れで金利を少し上げざるを得なかった。日本はまぁバブルの絶頂期でしたから87年はまだ、絶頂期の最後の状況でしたから、まだ体力があった。だから日本とヨーロッパはそんなに影響を受けなかったんですけれども、アメリカはいわゆるブラックマンデー状態になった。今回は、やっぱりヨーロッパはまだ調子がいいんです。サブプライムで困っている銀行もいくつかありますけれども、しかし経済は堅調。アメリカは非常に今どんどん急速に悪くなっている。日本は依然として底を這いつくばっている経済状況ですから、その中でいくらインフレと言ってもですね、金利を上げるというのはヨーロッパにとってはリーズナブルでありますけれども、果たしてアメリカ、日本にとっては下手をするとブラックマンデー、ひょっとしたら大恐慌になるかも知れないという問題をはらんでいるということを、ぜひ皆さん方、毎日の新聞を見て決めていただきたいと思います。
 
今、日本、世界の経済は3つのF、Food,Fuel,Financeという、食糧、燃料、金融という3つのFで悩まされているわけであります。アメリカの金融あるいは経済はますます悪くなっていくでしょう。そうすると、日本も当然影響を受けるでしょう。ですから日本は何をやったらいいのかということで、今2011年に向かって財政再建の方式を与謝野方式、中川秀直方式いろいろ言っておりますけれども、それは構造改革という抜本的な中長期的な改革でありますけども、私はそれをやる前に緊急に日本を元気にする必要がまずあるのではないか、いうのが、私の基本的な考え方であります。元気にならないうちに、肺炎の状態で体力が衰弱している状態で、それでも若干体重が多いから、お前ちょっと水泳で1キロ泳いでこいとかですね、ジムで自転車1時間漕いでこいと言っても、これは漕げません。仮に漕げたとしても、その時にはますます体力衰弱状態が悪化している状態になりかねないわけであります。私は、構造改革、その特に少子高齢の中での福祉の維持のために、思い切った改革が必要だと思います。しかしそれを、やれ増税するのしないのとか、歳出をもっと絞らなければならないのといった、形だけで今の日本経済を元気にしないまま、片っぽをぎゅっと締めるか、あるいは税金をもっと上げるかみたいな、議論だけでは、私はお一人お一人、あるいは国家全体が元気にならない、文字通り委縮をしていく、あるいはまた、それになれきって、もう失望感のまま、特にみなさん方これから何十年も夢と、そしてまた努力でやっていこうという人たちが、世の中が全く閉塞状態、しかもそれになれきっているという状態には、私はしたくないという風に思うわけであります。従いまして私はですね、この際、極端に言えば何でもありの緊急経済対策を取るべきだと考えております。減税も必要でしょう。本当に学生さんが一生懸命勉強する、その時には学資減税なんて今思いつきで早稲田に来ているから言っているわけでありますけれども、例えば母子家庭減税であるとか、あるいはまた、企業で言えば、その前に相続税の減税であるとか、あるいは、百万円の定期預金を仮に持っていても今は一年たっても3000円の利息にしかなりません。それだったら、金利を上げるわけにはいきませんから、一部分それを証券の方に回せる、回すようにする、もちろんリスクは伴いますけれども、リターンもあるわけで、博打さえ打たなければ利回りは0.3%よりははるかによく、比較的安全な商品もいっぱいあるわけであります。それを誘導するために、証券優遇税制、キャピタルゲイン、あるいは配当等の免税をするとか、あるいは皆さん方、一人でも企業を起こすことができますから、ベンチャー企業を起こすことはできますから、そういった企業に対しての人材育成、あるいはまた投資減税というものを思い切ってさらにやっていくとか、あるいは早稲田大学の優秀な学生たちにちょっと寄付をしてやろうと言った時の、その寄付金に対しての控除であるとか、あるいは今一部の輸出企業が日本の経済を引っ張っておりますけれども、収益を上げても、日本に持ってきても、税金を取られるだけとか、回す先がないとか言って、もう海外の現地法人にお金を置きっぱなしになっている状態、これをなんとか日本に戻してきて、そして、地方に私の北海道とか、九州とかそういうところで新たな投資をする時には、そういった投資に対しては税の軽減、減免措置を取るとか、こういったようなですね、思い切った対策が必要です。さらには、やはり日本が当たり前のように思っている。100ボルトというのは日本と北朝鮮だけなんですね。電圧が100ボルトというのは。電力というのはご承知の通り、電圧×電流ですから、電圧を倍にすれば単純に言えば電流は半分で済むわけですけれども、今どき世界で電圧が100ボルトなんて言うのは、先進国では日本だけ。これをせめて120ボルトとか200ボルトにするぐらいのですね、思い切ったインフラ投資をする。あるいはまた、時間があれば水の話をしたかったんですが、北極海の氷が解けると世界の安全保障と物流の流れが根本的に変わります。ヨーロッパと日本の間を往来するのが危ない中東とか、狭いスエズ運河とか、南周りで行くよりはるかに安全な、短い3分の1の航路で北極海を通って物流が劇的に変わります。もちろん安全保障の面でも大きく変わると思いますけれども、そういった劇的な変化をいい意味で人為的に誘発していくというのが大事だろうと思っております。思い切った改革が、ある意味では何でもありの日本を元気にするための政策というものが今こそ必要だと思います。時間が参りましたので、結論的に言えば、どうぞ皆さん方、学んでください。学んでくださいというのは、もちろん大学の授業、ゼミ、サークルその他もあるでしょう。しかしそれだけではなくて、例えば本、あるいはまたこれはと思った人に飛び込んでいっても、お会いをして話を聞く、これはやっぱり違います。早稲田の先生方には立派な方がたくさんいらっしいますし、それ以外にもですね、新聞・テレビで見た人でもこの人はおもしろいなと思えば飛び込んでいってですね、ぜひ話を1時間でも30分でも聞かせてもらう、こういう私はある意味ではみなさんのエネルギーを期待したいし、きっと多くの人たちはそれを受け入れてくれると思います。あるいはまた、エデュケーションという、皆さん方はまだエデュケーションを受けている立場ですけれども、エデュケーション、エデュケートというのはそもそもは人の能力を引き出すという意味であって教えるという意味ではないので、みなさん方の能力をプロたちが引き出してくれるという、つまり皆さん方も引き出される準備をしておかなければならない。つまり自分の中にパワーを溜めておかなければならない。自分の中に確信するものを持って、そして何らかの、いろんなノウハウでもスポーツでも何でもいいんですけども、蓄えておいて、それをさらにこの高等教育で引き出してもらうという、そのマッチング、これをぜひ大切にしていただきたいと思います。従ってチャレンジ、チェンジ、ときどき気分転換をする。チャレンジ、チェンジがあればチャンスができるという。3つのチャンネル、3チャンネル、chですね。チャレンジ、チャンス、そしてチェンジと。どうぞ皆さん方、若いんですから特に情熱に期待したいと思います。情熱に期待して、そして行動を起こす、アクションを起こす、それもスピード感を持って起こす。そうすれば必ず成功します。パッション、アクション、そしてスピード=サクセス。これもpass、パスですね。これさえできれば大学の授業はも