【講演】「経済雑感vol.3」〈終〉(2007〈平成19〉年末)

経済雑感vol.2 」(2007〈平成19〉年末)のつづき
(2007年末・昭成会(79回)での講演より)
◆個人消費の国、アメリカ
個人消費は日本が5割に対してアメリカは7割で、年間で一番消費するのがクリスマスの時期であります。クリスマス商戦がどうなるのか我々も注目していますが、おそらく厳しいだろうと思います。

その要因のひとつには、アメリカの可処分所得がバブルの崩壊によって減り、資産価値が下落することで含み益が含み損になってしまっていることがあります。アメリカはローン社会であり、ローン残高はGDPの1.5倍です。新規の可処分所得の伸びの7割は住宅投資に回っているというデータもあります。

そういうことでアメリカのクリスマス商戦の原資である使えるお金が全体として減っているどころか、もしかするとマイナスになっているかもしれません。

クリスマスといえば玩具、玩具といえばメイド・イン・チャイナ。
今は玩具に限らず「Chaina Free」と書いてなければ誰も買わないんだとアメリカの友人が言っておりました。
そういうことでアメリカのクリスマス商戦における最大の売れ筋である玩具がまったく売れないと、クリスマス商戦自体が厳しいのではないかと言われています。このことは世界経済に影響を及ぼし、もちろん日本にも影響を及ぼすと思われます。

◆サブプライムローンと原油
しかもこのサブプライムローン問題が、石油の値段に飛び火することは避けられないと思います。残念ながら現時点においては石油の価格を下げる要因はないと言わざるを得ません。
私がOPECの首脳会談に出席していたころから、原油は30ドルからじりじりと値上がりしておりました。サウジアラビアは1400万バレルの生産能力があるから困ることはないとか、高いのはけっして消費国だけでなく産油国にとってもいいことではないと口では言っていましたが、彼らにしてみれば下がるより上がる方がいいわけで、今のような高い水準の方がいいに決まっています。

しかし今のように高値で安定してしまうと、先ほどのデフレと同じように慣れてしまうことになりかねなません。アメリカは石油精製能力が老朽化のために落ちているとか、州ごとでガソリンのレギュレーションが違うために、テキサスでどれだけガソリンを作ってもそれをカリフォルニアでは普通のガソリンとしては使えないというような問題があります。それに中国やインドといったエマージングな国々は省エネ技術がとても遅れていて、そういう意味での実需の問題があると思います。

それから中東情勢。イラクの問題やクルドの問題、それから大きいのがイランの問題であります。一時期はニューヨーク・タイムズやヘラルド・トリビューンにブッシュはイランと戦争をするべきではないといった、あたかもこれから戦争を始めるような記事が載っておりました。

◆金融制裁という新しい戦略
ちなみに一年前に北朝鮮はバンコ・デルタ・アジアという北朝鮮系の銀行が締め上げられて音をあげたことがありましたが、その件がじわじわと効果を現して、北朝鮮はアメリカに対してかなり譲歩するようになったと思われます。

それによってテロ国家指定解除問題が懸念されるところでありますが。少なくともアメリカはしっかりと対話と圧力を北朝鮮に対して行っていますが、日本は対話ばかりで圧力が少なく、むこうにとっての死活問題にはなっていません。
実はアメリカは北朝鮮に対するその策に味を占めて、イランと戦争するよりも金融機関を締め上げる政策に転じたようであります。現にドイツ・バンクがイランと取引をしていたら、アメリカから巨額の制裁金を課せられそうになって、すごすごとイランから引き上げたようですし、ヨーロッパの主な銀行もそういった流れになっているようです。
たぶん日本にも同調するよう求めてくるのではないかと思います。

イランには主に5つの銀行があるそうですが、すでに4つはアメリカの制裁対象になっているという話も聞いておりまして、このように金融制裁で締め上げるというアメリカの新たな戦略がすでに行われていると理解しております。

◆原油価格と私たちの生活
いずれにしても石油の値段が高止まりすれば、一部の石油関連の会社を除くほとんどの企業にも、また私たちの生活そのものにも影響します。私の地元の農家や漁師、中小企業にも影響は大きく、ましてこれからの冬は暖房が欠かせませんので、石油の値段に対しては皆が悲鳴をあげているわけであります。

もちろん全国的にも同じだろうと思います。経済産業大臣に言わせれば石油は半年以上の備蓄があるから大丈夫となるんですが、実際にはなかなか放出するまでの決断はむずかしいのが率直なところであります。

したがってこのような二つの外的要因を前提にして日本経済のこれからを見ると、プラスになるような要因があまりありません。今の日本経済は外需と設備投資が牽引役になっています。設備投資の中でも機械設備投資は良くても、土地や建物の投資はマイナスであります。
この理由のひとつが7月の建築基準法の改正で、これは例の耐震偽装問題に端を発した改正ですが、認可や着工を遅らせる結果となってしまい、羹に懲りて膾を吹くようなことになっております。
外需についてもいいのは輸出だけではなくて、GNIにおける配当とか利子の受け取りといったものが巨額になっています。このような状況のなかで経済界に格差が広がっております。2000年にくらべて配当が2倍になったとか、役員報酬が3倍になったにもかかわらず賃金がマイナスのままだという話がよく出ますが、女性の間では仕事をしたいという人がとても増えてきているそうであります。

理由としては生活が厳しいとか将来に対する不安があると思いますが、労働市場に出てくる人がとても増えている反面で、経済そのものは同じようなスピードなので、非正規雇用が増えていきます。
それによって失業率が増えたり有効求人倍率が減るという悪化が起き、おまけに所定内賃金の低下が全体の足を引っぱっているようであります。輸出関連の大企業が企業利益全体を引っぱってはいますが、その他の企業は並もしくはマイナスであって賃金は上がっていません。

我々の政策は「企業から家計へ」でありますが、非製造業や中規模以下の企業においては機能しておりません。高利益のところはベースアップよりも所定外賃金のアップや非正規雇用で対応するということで、なかなか思うようにはいっておりません。それから地方におけるバラつきがかなりあります。

たとえば愛知県は9月の統計で有効求人倍率が1.99と高いわけですが、沖縄は0.44です。全体的には北海道や東北、九州、四国では高知県が悪く、それに対して関東、北陸などは製造業がとても良く、関西は回復しつつあるといった状況です。
景気対策としてデフレからどのように脱却するかということと、個人消費をどうやって引き上げていくのかという二つの大きなポイントがあると思います。
まずは減税でしょう。

◆個人消費と税
私は所得税や住民税をこの際におもいきって下げるべきだと思います。はたしてそれで年金や医療等のマイナス分をカバーしてプラスに転ずることができるか判断がむずかしいわけではありますが、個人税制をしっかり見直していく必要があると思います。

それと期限の近い証券税制、地方の個人経営の企業などの事業承継の問題があります。私が政調会長の時にこの案をすでに作っておりまして、「事業承継についての抜本的な見直し」ということで事業用の資産については現在10パーセントしか控除になっていませんが、党としてはできれば80パーセントぐらい控除対象にしようということで税調に臨む準備をしているところでございます。
親族だけでなく他人にも後継者になってもらい、小さくても良い事業であれば継続してもらいたいということであります。それにはいろんな方策が考えられますけれども、ひとつには登記手数料など権利移転のコストを中小企業庁で支援するよう支持をいたしました。

それから寄付金税制を変えて、もっと寄付をしやすくするべきではないかと思います。日本の寄付に対する税控除はアメリカとくらべると二桁も違うし、イギリスの4分の1だそうであります。この税制を変えることがきっとインセンティブにつながると思いますので、おもいきった寄付誘導税制という形の減税をするべきだと思います。

◆消費税など
他方、大きな問題として消費税をどのように捉えていったらいいのか。年金の国庫負担を3分の1から2分の1に増やすことになりましたが、その2.5兆円をいったいどこから捻出するのかという問題があります。
150兆円の積立金があるからそれを取り崩せばいいじゃないかという意見もありますが、100年計画でやっている虎の子の150兆円であって、いずれは取り崩すものではありますが、今から取り崩してしまったら歯止めがきかなくなってしまうと思います。

いくら政治状況や経済状況が厳しいからといって今から2.5兆円ずつ崩していったら60年でなくなってしまいますから、この話は問題外だと思います。
年金も医療も介護も、これからお金がどんどん必要になってきますが、それに対して消費税をどのように対応すべきか。もし消費税を上げることになれば短期的には景気への影響があるでしょう。私個人は論理的にいって消費税を上げるべきで、福祉目的税という名目で5パーセントほどさらに徴収したほうがいいのではないかと思っています。

証券税制の総合課税を導入するべきかという問題もありますが、とにかく仕組みをわかりやすくするべきだと思います。

それから地方税の見直しがあります。これには国と地方との問題と、地方間における問題とがあります。たとえば阿寒湖畔の人口は5000人ぐらいしかいませんが、年間200万人もの観光客が来ます。
その人たちが使った下水を処理しなければなりませんが、なかなか有料にすることはできませんのでどうするのかといった問題があります。それに大企業の工場がありますが、そこでの売り上げは地元では断トツの一番ですが、納める税金のほうはどうなのかといった議論があります。

それと私は住民票が帯広にあるので帯広に住民税を払っているわけですが、ゴミ収集などの住民サービスは東京の世田谷区にお世話になっているので、ちょっと申し訳ないという気持ちです。
ふるさと納税が導入されたら半分ぐらいは世田谷区に払ったほうがいいのかなと考えてしまいます。
いずれにしても北海道から見れば東京とか名古屋は儲かりすぎだと言わざるを得ないわけでありまして、石原都知事が何と言おうと税の公平感から言って少しはバランスを取らなければいけないのではないかと思います。いずれにしても税の抜本的な議論は先送りすればするほど後になってむずかしくなります。

◆エネルギーについて
最後に、エネルギー関連でお話しますが、ロシアは世界一のエネルギー国家ですが、そのエネルギーを川上から川下まですべて支配しようという戦略が明らかであります。

アフリカだろうが中央アジアだろうが、ついにはウランでオーストラリアとアライアンスを組むといった状況であります。またエクソン・モービルやBP、シェルなどスーパーメジャーの日量生産量が約400万バレルで、その他の中国・フランス・イタリアといった国々も200~300万バレルを生産しております。
ところが日本で一番生産しているところでもたったの30万バレル強です。日本のベスト10全部を合わせても60~70万バレルしかありません。

日本は世界で3番目の石油消費国であるにもかかわらず、生産量は世界の30番目から40番目の間にひしめいていて、私はビジネスルール、または国益の観点から見ても日本にメジャーがあってしかるべきだと常日頃から思っております。
関係者の皆様には大変に申し訳ありませんが、そうでなければ負けてしまう。これからもっと自主開発が必要になれば、セキュリティーからファイナンスまで国が先頭になってやっていく必要があります。

ロシアはガスプロムやトランスネフチなどの国策会社をどんどん作っています。日本は世界で一番の輸入国家であり、世界で3番目の消費国家であるにもかかわらず、政府と民間が一緒に行くと癒着しているように見えるからまずいなどと言っている。もうそんな時代は終わったと思います。
これからは政府とビジネス界と学者の人たちといっしょにオールジャパンで世界と交流することが、これからの日本の生きていく道であろうと思っております。

さらにレアメタルなどの資源はほとんどが中国やオーストラリア、南アフリカやカナダ、ロシアやカザフスタンなどの国々にしかない状況です。
しかも中国は極度の意地悪で、自分のところに持っているにもかかわらずさらに他のところも支配下に治めようとしています。
日本にはほとんどレアメタルがありませんが、世界一のハイブリット・カーや薄型テレビや携帯電話を作るためには欠かせないものであります。そういう状況を打破するためにも、少なくとも買い手としてのトップランナーでなければならず、国と民間が一体となったビジネス戦略が必要であると考えます。これはやがては食料においても同じことが言えると思います。

◆これからの日本の世界戦略
日本は自動車産業が中心となって輸出で日本経済を引っぱっておりますけれども、これから日本が世界に打ち出して行ける可能性があるものは、鉄道システム、環境・省エネ・水だろうと思っております。

LDC(後発開発途上国)の国々に対してはODAの観点での話でありますが、インドや中国ぐらいの国々となればビジネスの対象として、日本の経済を支えていく大きな柱として考えていかなければならないと思います。

世界の水道ビジネスはフランスとイギリスの3社が支配しているわけでありますが、日本にもりっぱな濾過技術や省エネ技術があります。
20年前にはトイレを流す時に一回で20リットル水を使っていましたが、今では5.5リットルで流すことができるようになりましたし、冷蔵庫は20年前には今の2倍の電気を食って、しかも容量が今の半分だったわけですから、コストは4分の1となっています。

このように省エネや環境、水といったビジネスを中心に、日本の中小企業は世界一であります。しかしそこに行きつくためには人を育てなければなりません。やはり人づくりが大事であります。人づくりは教育ということになりますが、産まれた直後からの人づくりによって今後の日本が決まっていくのだろうと思います。

(終わり)