(3)WTO交渉(2)途上国支援で攻め
《2005年12月の世界貿易機関(WTO)香港閣僚会合を控え、日本政府は、ドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)の目的でもある後発発展途上国(LDC)支援策をまとめた》
今次ラウンドは、開発ラウンドと言われるけれど、「真の意味の開発とはなんだろうか」と常に考えていた。
閣僚会合などで、西アフリカ綿花生産国のブルキナファソやマリ、ベナンをはじめとしたLDC諸国の話を聞くと、これはもう本当に気の毒だと痛切に思った。1人当たり国内総生産(GDP)が900ドル以下で暮らすというのは壮絶だ。そういう意味で「なんとかしなければ」という正義感もあった。
悪いけれども、ある程度発展した中国やブラジル、インドのためではなく、本当に困っている国に貢献することが必要だと感じたんだ。香港閣僚会合を前に、小泉純一郎総理に話をしてぜひやろうということで、政府一体でまとめたのが「小泉イニシアチブ」と呼ぶ開発パッケージというわけだ。
《LDC諸国の在日大使らを官邸に集め、小泉首相自ら開発パッケージを発表し、日本の貢献策をアピールした》
開発パッケージは、単にLDCからの輸入品を原則、無税・無枠とするだけではなく、生産・流通・販売全般にわたる能力開発の支援で、そういう産品をマーケットで売る努力をしようという内容だ。
小泉総理は香港閣僚会合が始まる日にあわせて、フィナンシャル・タイムズ(英国の経済紙)に寄稿して、日本の姿勢を世界に示してくれた。
香港閣僚会合では、私が対象国の閣僚を集めてこの提案を説明したんだが、ものすごく関心が高くて「エビを輸出したい」とか質問攻めにあったな。ガーナなどは私の発言を非常に評価してくれたよ。日本の存在をWTOの中で大きくしたのがこの提案だった。
今次ラウンドでは、途上国の声が非常に大きい。交渉を前に進める力があるかどうかということは別にして、前回のウルグアイ・ラウンドと比べてノーと言える力はだいぶ強くなっている。
そういう国々に対して、特別な対応を日本が積極的にやっている姿勢を見せる意味は大きいな。