日本農業新聞 「ざっくばらん 農相回顧 中川昭一」(3月30日掲載)


(9) 米国産牛肉問題(上)全面停止を決断
《政府は牛海綿状脳症(BSE)発生で禁輸していた米国産牛肉を2005年12月に輸入解禁。だが、06年1月20日に輸入条件違反の背骨(BSE特定部位)混入が発生し、再び全面輸入停止にした》
 輸入解禁からわずか1カ月余で、成田空港の動物検疫所で背骨混入が見つかった時は大変だった。国会内での移動中にその報告メモが入った。驚いたよ。間違いないということで、農水省ですぐ記者会見して発表した。ただ、この時は腰が痛くて自宅に帰った。でも、すぐに川崎二郎厚生労働相と電話で相談し、全面輸入ストップでいく決断を了解してもらった。小泉純一郎総理からも「分かった」と即答をいただいた。
 この背骨混入は明らかな輸入条件違反で、緊急事態だった。マスコミが騒ぐだろうし、何より消費者が大変な反応をするだろうから、とにかく「急がば回れだ」と腹を決めた。輸入再開した途端だから、いかなる理由があるにせよ、いったん振り出しに戻さないとかえってややこしくなる。だから、背骨を混入させた食肉施設だけでなく、米国産を全面ストップにしたんだ。
 《米国側も同日、ジョハンズ農務長官が記者会見で非を認め、全面停止を受け入れた》
 私はジョハンズ農務長官に電話し、背骨混入の原因究明と再発防止策の徹底を申し入れた。その時、私はこう言ったんだ。「これは輸入停止を延ばす時間稼ぎではない」「あなた方が本当に牛肉を日本に売りたいなら、消費者に買ってもらえるように努めるべきだ。だから、信頼回復をきちんとすべきだ」と。日本の諺(ことわざ)でいう「急がば回れ」を諭した。ジョハンズ長官は信頼できる男で「申し訳ない」と低姿勢だった。
 ところが、ペン農務次官が謝罪ですぐ来日したんだが、米国産牛肉は自動車事故に遭うよりはるかに安全だ、みたいなこと言って、マスコミや消費者を逆なでした。私は1月下旬のスイス・ダボスでのWTO(世界貿易機関)非公式閣僚会合でペン次官に会った時に、「あなたがそんな発言をしていたら、ますます解決しませんよ」と言ったら、さすがに黙って聞いていた。