週刊文春 「核議論」は絶対に撤回しない! インタビュー記事(11月2日号)


十月十五日、中川昭一・自民党政調会長が、テレビ朝日『サンデープロジェクト』で「核議論を尽くすべきだ」と発言したことを巡り、大きな議論が内外で起こった。
 その翌日の出来事を、中川氏はこう話す。
「十六日に外務省の飯倉公館で、王毅・駐日大使らが参加した日中関係団体のパーティーがありました。麻生太郎外務大臣が挨拶をした後、私が乾杯の音頭をとったんです。すると、その直後に、みんなの前で麻生さんが私の頭をポーンと叩いた。『お前、こんな発言、TPOを考えろ』と怒られてしまったのです」
 ところが、その翌日には麻生外相も「この国は言論統制をされている国ではない。隣の国が(核を)もつとなった時、一つの考え方として、いろんな議論をしておくのは大事だ」と発言。渦中の中川氏の意見に賛同する形となった。
 テレビ番組の中で語られた内容は、「非核三原則は国民との重い約束だ。しかし、最近の北朝鮮の核実験の動向を受けて、この約束を見直すべきかどうか議論を尽くすべきだ」というものだ。これまで日米安保や国是である「非核三原則」がある手前、核の問題は政治家自身が議論はおろか触れたがらない傾向にあった。それが、今、海外メディアが関心を寄せ、「タブーを打ち破る発言」と報道している。
 中川政調会長は、なぜあえて「核論議」に踏み込んだのか。中川氏本人にその真意を聞いた。
 ――加藤紘一氏が、「北朝鮮の核保有よりショッキングだ」と発言したが、どう思うか?
「加藤さんがそう言ったとすれば、大きな意味のある発言だと見なしてもらったということで大変ありがたい。日本の安全に関する発言ですから。そもそも、私は核保有議論はしていません。核の議論をしましょうと言ったのです。もっと言えば、核の抑止力の議論を提言したいと言ったのです。それは、拉致も含めて日本の平和と安全に関する抑止力です。
 議論を封じ込めること自体が、おかしいんですよ」
 ――自民党で、核の議論をする場を設けることを考えているのか?
「たまたま政策の責任者である政調会長という立場だったから話題が大きくなった。そういう意味ではありがたいと思う。でも、私はどういう立場でも、同じことを言ったと思います」
 ――議連などでまず議論の場を作るのか?
「そういうことは考えてない。政調会長として言ったのではなく、一日本人として、一国会議員として当たり前のことを言っただけです」
 ――ワシントン・ポストが、「中国への外交カードとして非常に重要な発言だ」と書いています。外交の有効なカードという認識もあったのでしょうか?
「まず、日本の安全のために何が必要ですか、ということです。北朝鮮がミサイルを撃ったり、拉致をしたり、核実験をしたとするならば、日本に対しては脅威でしょう? だとしたら、どうすれば日本の安全と平和は守られますかという疑問を僕は語っているわけ。北朝鮮が核実験を実行したのであれば、日本としても議論しなきゃいけないんじゃないですか、と言ってるんですよ。ワシントン・ポストだけじゃない。先週のウォールストリート・ジャーナル、NYタイムズでもこの議論は出てますよ。よく見て下さい。世界中が議論してるんです。なぜ日本だけ議論しないのですか」
 中川氏は、一部、日本のメディアの報道に不信感を抱いたという。
「日経新聞を読むと、まるで私が『日本は核保有して、核兵器をバンバン撃つ』みたいな調子で書いている。何か勘違いしていますよ。日経の記者には『クオリティ紙と言われている日経が、全然違うということがよくわかった。なんで議論しちゃいけないの?』と聞き返した。僕は核保有論者でもないし、もちろん侵略論者でもない。日経の社説に、『軍事的にも日本の核武装は合理的ではないとほぼ結論が出ている』とありましたが、こんな結論なんか出てないですよ」
 冒頭で紹介した麻生外相の「TPOを考えろ」という冗談半分の言葉は、逆説として正しかった。国際的な関心が東アジアの動向に向いている現在、今後の日本の在り方について国民が考えるいい機会であることは確かだ。
 そこで、最初の壁となるのが、ライス米国務長官が言及した、「日米安保条約」だ。アメリカは日本の核保有を望んでいないことをはっきりと表明している。むしろ、アメリカの「核の傘」を強化すべきだ、というのが米政府の考え方だ。
 ――日米同盟の「核の傘」があるから核を論じる必要はない、という批判があります。
「核の傘って何ですか? その本質的なところから、考えた方がいい。僕が言ってるのは、『自分の国は守ります』という意志と最低限の能力があることを示すのが、日米同盟じゃないのかということです。核以前に日本は何でもアメリカに守ってもらう、自衛隊もいらない、あるいは血を流さなくていい、と主張する人たちがいる。アメリカが日米同盟のもと、守ってくれているのだから、そういう議論もいらないという人がいれば、それはもうお笑いぐさです。アメリカはそこまでお人好しですか」
侵略なんか嫌だし、戦争も嫌いだ
 ――では、日米安保をどう位置づけるのか。
「日米安全保障条約も国際連合憲章も、さらには国際連合も、『自衛』というテーゼが前提にある。日米安保も自衛からスタートしないといけないはずです。
 日米安保条約が最初にあったのではなく、まず初めに、『日本の平和と安全を、日本がどうやって守れるのか』ということから議論すべきでしょう。まず、土台は日本にある。二階建ての家に見立てたら、その次に、二階に建てられる部分が、日米安全保障条約。その二階建ての家が建つ地域に、国際の平和と同盟国があり、国際社会が成り立つ。
 日米安保の前に日本の抑止力がまず最初にあるべきなんです。ところが、今は順番が逆。日本国民の生命と安全を守るために、どんな手立てがあるのか。その原点に戻るべきです」
 ――アメリカの国防白書は〇三年、「日本は二○五〇年までに核武装を行うだろう」とレポートしている。
「中国、ロシア、北朝鮮が核武装をした場合、日本がどうすれば生き残れるかシミュレーションを行えば、アメリカがそう考えるのは当たり前なんです。僕は『核武装しろ』とは言ってませんが、議論は必要だと言っている。アメリカであれ、中国であれ、みんな考えていることです。アメリカがどう思ってるか? 中国がどう思ってるか? 北朝鮮がどう思ってるか? 非核三原則を前提にして、そういうことを議論しましょうと言っているのに、なぜしてはいけないのか。それを聞きたい」
 過去にも要職にある政治家が核に関する議論を提起したものの発言を否定したり、取り消すことがあった。メディア側も発言の真意を探ることは少なく、いわば「言葉狩り」に近い雰囲気が蔓延している。
「議論を促す発言をしただけで、国会議員がクビを取られたら、おかしくなる」と、中川氏は危惧する。
「九九年十月二十六日に、鳩山由紀夫さんも、『こういう議論をしなきゃいけない』と、公の席で発言して、新聞にも掲載されているんです。ところが、その鳩山さんが、僕の発言に対して、『議論自体が誤解を招く』と言っている。この矛盾をマスコミは突かないで、僕が発言した『あの国の首領は、国民が飢えているのに、糖尿病』という一部ばかりを取り上げる。糖尿病の方々にはご迷惑をかけて申し訳ないと思っています。だけど、報道の仕方もおかしいと思う」
 中川氏の事務所には、メールやFAX、電話で多くの意見が寄せられているという。感情的な言葉を一方的にぶつける反対派がいる一方で、意外なことに、多くの人は「議論は必要だ」と賛同しているという。
「昨日、戦争の映画を見てきましたよ。クリント・イーストウッドが監督した『父親たちの星条旗』です。やっぱり戦いは良くない。自分の体も親族の体も傷つけたくない、だから、どうしますか? というメッセージを投げかけるアメリカ批判の映画です。僕は侵略なんか嫌だし、戦争も嫌いだ。侵略戦争をするつもりは全くない。これが大前提です。朝鮮半島や中国に日本が攻める、そんなバカなことはしない。だけど、向こうが着々と準備して、日本に対して宣戦布告をした場合、みんなで事実認識と対応をしましょうと提案しているにすぎないんです」
 そして、中川氏は改めて、「発言は撤回しません」と断言した。さらに、中川氏の発言にもとづく一連の〓騒ぎ〓を「間違ってないと思う」とも言う。
「僕が言い、麻生さんが続き、加藤さん、山崎(拓)さんが僕とは違う見解を言う。そして、アメリカが騒ぎ、議論が始まる。大いに結構じゃないですか。日本の平和と安全のために何を選択すべきか。クリント・イーストウッドの映画にも登場する生々しいシーンですが、自分の体がちぎれ、親や子どもの体がちぎれるのが戦争です。だから、そういう事態を避けるために、何ができるのか。そこを前提にした議論は絶対に必要だと思います」