最近読んだ本(12月6日)『顔のない男』 熊谷徹 新潮社


■ 「顔のない男」 熊谷徹 新潮社
著者は元NHK記者で、ドイツを始め欧米事情に詳しい。「事実は小説より奇なり」。冷戦時代、東ドイツの諜報機関、シュタージのトップに30年以上君臨した「スパイ・マスター」を中心にした実録スパイもの。
ドイツ人らしく、計画的に十数年かけて準備した。西ドイツのブラント首相側となった「ギョーム事件」や、NATO本部に侵入した「トパーズ」、戦前・日本の「ゾルゲ事件」等を扱っている。

目的の為に手段を選ばず、極めて合理的である一方、東西両陣営とも結果として単純ミスの連続で滑稽さえ感じらえる。根底には、評価を超えた各自の正義感と極端な猜疑心。
冷戦崩壊後自己弁護に走り、部下の恨みと統一ドイツの軽蔑を買う。西側は「顔のない男」と呼び、本人は「変身することは芸術」とうそぶく。

スパイ活動が日常に浸透し、古典的人的活動から、最新機器まで駆使し、マスコミも格好の利用対象。核疑惑の「イラク調達報告」も引用しながら、「現在、世界で最も優秀な諜報国家は中国」と専門家が指摘する。日本は、何と能天気か改めて震撼する。著者は21世紀の今、最も警戒すべきは「無差別テロ」と「経済・情報のスパイ活動」と警鐘を鳴らす。
そして「スパイ・マスター」が利用した「非公然一般人スパイ」が益々「鍵」になっているという。
これが事実なら、恐ろしい。